覚え書:「耕論:『右傾化』 三浦瑠麗さん、平沼赳夫さん、さやわかさん」、『朝日新聞』2015年04月11日(土)付。
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耕論:『右傾化』 三浦瑠麗さん、平沼赳夫さん、さやわかさん
2015年4月11日
新たな安保法制の整備を進めるなどの政権の動きに、「日本は右傾化しているのでは」という海外の懸念が伝えられる。自分たちで問い直してみよう。私たちは、右傾化していますか?
日本のメディアも海外メディアも日本の右傾化を取りあげます。いまの生活を守りたいという意味で、自分を「なんとなく保守」と感じる人こそ多いけれど右傾化とはいえない。それが私の実感です。
世界基準で見れば、日本の経済政策も社会政策も相当に「左」といえます。戦後民主主義が達成してきた成果を否定しようとする人たちは、実質的に存在しないでしょう。
ただ安全保障と歴史認識の分野だけは、これまでと様相が違ってきている。細かく見ていく必要があります。
安保における「右」は、一般的にいえばタカ派。拡張主義的な政策を推進します。安倍晋三政権での防衛費の増加や、政府と与党が安保法制の改定をめざす動きは、一見右寄りに見えます。とはいえ、これは中国の軍事的脅威の増大と米国の力の低下という実情にリアルに対応するものと見るべきで、右傾化とまでは言い難いと私は考えます。
一方の歴史認識。具体的には近現代史への態度を意味します。戦後日本においては、この問題は左右の立場を分ける重要な軸でしたが、ここにきて右的な言説が明らかに目立っています。安保と同様、中国の台頭や軍事的脅威、韓国での反日的行動など近隣情勢の変化が背景にあります。
そして、多くの戦争体験者が存命していた時には、中国に一定の贖罪(しょくざい)意識を持ったり、敗戦国としての相応の制約を受け入れたりしていた状況が、戦争体験者が少数になったいま、様変わりした事情も影響していると思います。
厄介なのは、この歴史認識が右と左の主要な論点になっていることです。それはなぜか? 誤解を恐れずにいえば、右にとっても左にとっても、歴史認識は害のないテーマだからです。
日本には、様々な政策について広範な合意が存在します。中福祉・中負担の福祉国家を守る。基本的人権や個人主義の尊重。防衛主体の軍事力保持、などです。現実には少子高齢化や財政逼迫(ひっぱく)で福祉国家の土台は揺らぐ。構造改革が不可避ですが、右も左も痛みの伴う急激な改革は避けたい。そこには踏み込まず、歴史認識ばかりが関心を集めてしまう構造があります。
ただ今後、日本が右傾化する可能性は低いと思います。私たちが日中韓3カ国で実施した意識調査では、日本の若者の隣国への意識は相対的には良好です。経済的相互依存が一層深まる中、こうした若者が社会の中核となるにつれて関係は改善するはずです。
日本が本当に右傾化するとすれば、政治家が歴史認識に基づきナショナリズムを煽(あお)ったときでしょう。国内的にも対外的にも、歴史認識には違いがあることを認めたうえで新しい時代の近隣外交を展開する。政治の知恵に期待したいですね。(聞き手・吉田貴文)
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みうらるり 80年生まれ。ブログ「山猫日記」では、国際政治や社会批評を縦横に展開。近著に「日本に絶望している人のための政治入門」。
■平和と安全、自前で担保を 平沼赳夫さん(「次世代の党」党首、衆院議員)
われわれ「次世代の党」に寄せられるメールを分析すると、若い人たちの意識は変わりつつあると思いますね。とりわけ安全保障の分野で。
その背景にあるのは中国の台頭でしょう。軍事費の猛烈な増加。防空識別圏を設けて、尖閣諸島を自国の領土だと強弁する姿勢。こうした中国の現状に、日本は対処しなければなりません。
なにも軍国主義になれ、というわけじゃないが、日本の平和と安全は日本人自らの力で担保する努力をしないといけない。そんなわれわれの考え方は一定の支持を得ていると思います。わけてもネットでの支持は結構高い。
それだけに昨年末の衆院選で48人の候補者を立てながら、2人しか当選できなかったのは、予想だにしなかった大敗でした。
敗因? 昨年8月に発足した次世代の党は知名度も組織力も足りなかった。戦後最低投票率のあおりもあり、票を上積みできませんでした。石原慎太郎さんが比例代表の最下位となったため、石原ファンから集票できなかったのも一因でしょう。それでも比例で141万票をいただいた。これから全国的に応援組織を整え、国会議員による動画発信など、ネットへの発信にも力を入れていきます。
そもそも保守主義者を名乗る人たちを含め、日本人の多くは誤解しています。尖閣諸島で日中が衝突すれば、日米安全保障条約を結ぶ米国が助けにくると信じていますが、それは錯覚です。日本のために、遠く離れた離島で米国の若者が血を流すなんて、あり得ないですよ。
私は若い頃、学者や元外交官の錚々(そうそう)たる方から勉強会に誘われ、連合国軍総司令部(GHQ)占領下に現行憲法が制定された経緯を学んだ。米国は口では「自由」や「民主主義」と言いますが、占領期に彼らがやったのは憲法の押しつけであり、報道管制であり、占領政策に反対する中央や地方要人の公職追放だった。米国と仲良くする必要はあるけど、よほど警戒しないといけないと思うんですね。
今の憲法の民主主義の思想は悪くない。悪くはありませんが、成立過程は問題だ。日本人の手になる民主的な憲法を改めてつくるべきだというのが私の考えです。その土台の上に、平和と安全を日本人自らの力で担保する安保政策を展開するべきです。
自国の歴史を知らなければ、国のあり方を根本から考えることができない。結局、その場しのぎの思考になってしまいます。保守主義者こそもっと歴史を学ばないといけないね。以前、右翼の人に頼まれ、憲法の講義をした時、占領下で憲法が制定された経緯を話したら若い人はポカンとしていた。しっかり勉強して保守のコアを強めてほしいな。(聞き手・吉田貴文)
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ひらぬまたけお 39年生まれ。小泉政権の郵政民営化に反対して自民党を離党。保守勢力結集をめざす活動を続け、昨年8月、「次世代の党」党首に。
■事なかれの真空、危うい さやわかさん(ライター、評論家)
「艦これ」は、旧日本軍の軍艦が少女に擬人化される「艦隊これくしょん」という人気ゲームです。これだけではなく、女子高校生が第2次大戦時の戦車に乗って戦うアニメ「ガールズ&パンツァー」、特攻をテーマにした百田尚樹さんの小説「永遠の0」などが高い人気を得ています。「愛国エンタメ」と呼ばれたり、「右傾化」の表れと見なされたりしますが、僕は必ずしもそう思いません。
「艦これ」は、実在の艦船を性能や史実を細かく踏まえて擬人化しています。そのこだわりを異様に思う人がいるのはわかりますが、ポップカルチャーの中では、軍事ものは以前から定番でした。それが最近またブレークしているにすぎないのだと思います。
ただ、一方で、戦争のとらえ方が変わってきているのも事実です。以前は、エンタメであっても、戦争を扱った作品は何らかのイデオロギーを持っていた。「ゴジラ」には核兵器や戦争への批判がはっきり反映されています。
ところが「艦これ」にはそれが強く出ていない。積極的に戦争を賛美するわけでもなく、反戦でもない。イデオロギー的なものが抜け落ちているので、かえって不気味に見える。何らかの主張があるはずだと思う人は、反戦の姿勢がストレートに感じられないので戦争賛美だと思いこむ。
作り手が立場を表面に出さなくなったのは、ネットの普及以降です。ネットでは、白か黒かという二分法の思考が強い。典型がネトウヨ(ネット右翼)や、彼らに敵対するカウンターと呼ばれる人たちです。あらゆる人を敵と味方に分け、どんなものにも政治性を読み取ろうとします。
戦争に対して何らかの立場を表明すると、「戦争賛美」「反戦」という両極端に落とし込まれて、多くの人に届かなくなる。だから売るためには政治性を排除する。「艦これ」も「永遠の0」も、最終的には恋愛や家族の絆のような情緒的な話に行き着く仕掛けになっています。
「『艦これ』は右傾化だ」というのは簡単ですが、それはネトウヨがすぐ「売国」とレッテルを貼るのと同じ。問題はレッテル貼りが事なかれ主義を招いていることです。そして政治性をはぎ取られ、漂白されたものばかり与えられていると、その真空状態にかえって排外主義的な思想が入り込む危険性があります。
だから、戦争を扱うゲームやアニメのファンも「現実の戦争を描いたものじゃない」と開き直るべきではない。戦争賛美と見なされかねない作品だということを受け入れ、しかし自分たちはネトウヨとは違うとはっきり言えなくてはいけない。「戦争」への多様な見方を理解しながら「艦これ」を楽しむことはできるし、そうあるべきだと思います。(聞き手・尾沢智史)
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−−「耕論:『右傾化』 三浦瑠麗さん、平沼赳夫さん、さやわかさん」、『朝日新聞』2015年04月11日(土)付。
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http://www.asahi.com/articles/DA3S11698877.html
その事実性は否定しないけれども、日本の右傾化のトリガーを中国の台頭「だけ」で理解してしまうというのは浅薄すぎないかと。学者がフラットを気取り、まだ大丈夫という認識と、サブカル界隈がフラットに批判していくというのは、なんだか不釣り合いなものを感じてしまう。
— 氏家法雄 (@ujikenorio) 2015, 4月 11
日本は右傾化していない、が批判を浴びるのは、ようは「もっと右へ!」と扇動してるのとおんなじだからですよ。
— 赤い豚 (@cochonrouge) 2015, 4月 12