覚え書:「ニュースの追跡:安倍首相へ 知日研究者187名が声明 『慰安婦問題 直視を」、『東京新聞』2015年05月08日(金)付。

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ニュースの追跡
安倍首相へ−−知日研究者187人が声明
慰安婦問題 直視を」

歴史認識を批判しつつ 韓・中にクギ

 欧米を中心とする日本研究者ら百八十七人が四日、連名で安倍晋三首相に対し、「(歴史認識問題が)世界から祝福を受ける障害になっている」と指摘する声明を発表した。戦後日本の平和外交などの歩みをたたえつつも、先月末の米議会演説で首相が言及を避けた「慰安婦」について、事実を直視するよう求めている。(鈴木伸幸)

 この文章は「日本の歴史家を支持する声明」と題され、「戦後七十年という重要な記念の年」に、日本と隣国が平和を守ってきたことを祝うためと趣旨が記されている。実際には、今夏発表される首相の「戦後七十年談話」を念頭においた「意見」とみられる。
 声明には、米国を中心とする知日派研究者の大物が名を連ねている。
 一九七九年のベストセラー「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の著者でハーバード大名誉教授のエズラ・ボーゲル氏のほか、ピュリツァー賞受賞のマサチューセッツ工科大名誉教授ジョン・ダワー氏、本紙元客員でロンドン大名誉教授のロナルド・ドーア氏も賛同している。さらに「私も加えてほしい」という研究者が相次いでいる。
 声明は今年三月に米シカゴで開かれた「アジア研究協会」の年次総会で話題となり、その後に日本研究者がネット上で議論を続け、まとめられた。声明は「組織や機関を代表したものではなく、署名した個々の研究者の総意」と断られているが、これだけ有力な研究者たちの連名は珍しく、影響力を持ちそうだ。
 声明では「民主主義、自衛隊文民統制、節度ある警察権の行使、政治的な寛容さ、海外への寛大な援助」を具体例として、戦後日本の七十年を「世界の祝福に値する」と評価した。
 その一方、歴史認識を問題視した。とりわけ、慰安婦問題については「日本のみならず、韓国や中国の民族主義的な暴言によってゆがめられ、研究者が政治家、ジャーナリストによる史実の究明ができなくなっている」と現状を説明。
 慰安婦の人数や強制的に慰安婦にされたか否か、軍の関与の程度などには異論もあり、被害者の記憶の一貫性についても疑問があると前置きしたうえで、「大勢の女性が意思に反して拘束され、恐ろしい暴力にさらされたことは、資料と証言から明らか」と断言。
 特定用語について狭い法律的議論を重ねたり、証言に反論するために限定的な資料にこだわることは「残忍な行為から目を背け、非人道的な制度を取り巻く、より広い文脈を無視すること」と指弾している。
 加えて、先月末の米上下院合同会議で、安倍首相が「人権の普遍的な価値や人間の安全保障の重要性、そして近隣諸国に与えた苦痛を直視する必要性」に言及したことを評価しながら、その言葉通りに「大胆に行動するよう」求めた。
 今回の声明について、米国事情に詳しい明治大の越智道雄名誉教授は「声明には二つのポイントがある。慰安婦は『dignity(尊厳)』にかかわる全ての女性に対する問題だと指摘し、韓国や中国が民族主義的に政治利用することにクギを刺したこと。もう一つは、米議会の演説で慰安婦に触れなかった安倍首相に対して『問題を直視なさい」と促した点だ」と解説する。
 「賛同者には日本人名もあるが、白人の米国人が中心メンバーであることに意味がある。こうした問題では、加害者と被害者が直接交渉しても、解決はなかなか難しい。日中韓の三カ国に対し、中立的な立場を示している分、解決の糸口につながるかもしれない」
    −−「ニュースの追跡:安倍首相へ 知日研究者187名が声明 『慰安婦問題 直視を」、『東京新聞』2015年05月08日(金)付。

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