覚え書:「書評:「若者」の時代 菊地 史彦 著」、『東京新聞』2015年05月10日(日)付。


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「若者」の時代 菊地 史彦 著

2015年5月10日


◆輝きと活力に満ちた群像
【評者】三上治=評論家
 「若さだよ、ヤマちゃん」という威勢のいいCMが聞こえていたのは一九七二(昭和四十七)年頃だったと記憶している。七二年は世界が転換した年といわれるが、この頃はまだ学生運動の余燼(よじん)も残っていて、若さが輝きと活力を失ってはいなかった時代である。戦後七十年のいま、それを俯瞰(ふかん)するのは難しいのだが、「若者」というのは戦後という時代のバロメーターとして存在してきたように思う。
 戦後復興から高度成長へと歩み、やがて戦後過程は停滞期に入る。そこでは社会的意識の絶えざる変動(流動)があり、これを先頭で革新的に体現してきたのが若者たちだった。それは若者が時代の変化に敏感であり、社会意識のもっとも感度の高いアンテナの役割を果たしてきたからであろう。
 美空ひばり悲しき口笛』を聴くと母のことを想(おも)い出す、と言ったのは寺山修司だ。その哀愁を含んだ歌声や『青い山脈』の若々しい歌声の鳴り響いた敗戦直後から、学生たちの異議申し立てが頂点にあった六○〜七○年代、そして経済の停滞期に入る時期の学園ドラマや都市近郊の青年たちの苦悩まで、彼らの言葉や行動で時代の様相が描かれている。著者の経験した六○年代後半の若者たちの行動をとりあげた第3章「端境期のセヴンティーン」や4章「舞い降りたバリケード」あたりが中心になるが、これは「輝ける一九六○年代」とも称される「若者の時代」だったのだから当然だろう。ほかにも集団就職の「金の卵」たち、郊外のヤンキーたちなど、その前後の時期の若者群像にもよく目配りが届いている。
 終章「東北と若者たち」は3・11とその後の現在に迫っている。若者の時代はまた新しさのもてはやされた時代でもあったが、その背後に続いていた伝統的なものの力と若者の孤立の問題もまた、一貫して「自由と民主主義」が希求された時代であったことを著者は見落としてはいない。戦後の七十年に接近するための好素材といえる。
トランスビュー・2592円)
 きくち・ふみひこ 1952年生まれ。文筆家。著書『「幸せ」の戦後史』など。
◆もう1冊
 浅野智彦著『「若者」とは誰か』(河出ブックス)。この三十年、若者は自らをどう探り、大人はどう若者を語ってきたかを考察。
    −−「「書評:「若者」の時代 菊地 史彦 著」、『東京新聞』2015年05月10日(日)付。

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「若者」の時代
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菊地 史彦
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