覚え書:「林中無策:朝河貫一の警告=倉本聰」、『毎日新聞』2015年05月13日(水)付。

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林中無策:朝河貫一の警告=倉本聰
毎日新聞 2015年05月13日 東京朝刊

 京大の小出裕章先生が退官された。助教(助手)のままでの退官である。原発安全神話を生み出した数多(あまた)の御用学者の中で、反原発を訴え続けた。名誉や栄達には無縁の孤高の原子核研究者である。長野で仙人になられるという。心からお疲れ様と申し上げたい。

 どうも近ごろ、政財界に都合の良い意見だけがとりあげられ、不都合な真実は切り捨てられる、そういう風潮がますます広がっている気がしてならない。最近初めて、2012年7月に出された東電原発事故に関する国会事故調の報告書を読んだ。その冒頭談話で黒川清委員長がこういう趣旨の発言をなすっている。

 「100年ほど前に、ある警告が福島が生んだ偉人、朝河貫一(あさかわかんいち)によってなされていた。朝河は、日露戦争に勝利した後の日本国家のありように警鐘を鳴らす書『日本の禍機』を著し、日露戦争以後に変われなかった(、、、、、、、)日本が進んで行くであろう道を正確に予測していた。変われなかった(、、、、、、、)ことで起きてしまった今回の事故に、日本はどう対応し、どう変わっていくのか。世界は厳しく注視している。この経験を無駄にしてはならない。国民の生活を守れなかった政府をはじめ、原子力関係諸機関、社会構造や日本人の思いこみ(マインドセット)を抜本的に改革し、この国の信頼を立て直す機会は今しかない」

 この報告書から3年がたった今にしてようやく、不勉強な僕は初めて読んだ。総理は、閣僚は読まれたのだろうか。

 朝河貫一は1873(明治6)年生。日本人初のエール大教授。そもそも歴史学が専門であり、日米開戦を阻止すべく昭和天皇宛てのルーズベルト親書の作成に没頭するが、その親書が届けられたのが真珠湾攻撃直後のこととなる。生前彼の唱えたことに「反省力ある愛国心」「国家前途の問題への洞観」という二つの言葉がある。

 今我々は先輩たちの言葉に、改めて真摯(しんし)に耳を傾ける必要があるまいか。(脚本家。題字と点描画も筆者。次回は6月10日掲載)
    −−「林中無策:朝河貫一の警告=倉本聰」、『毎日新聞』2015年05月13日(水)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150513ddm013070060000c.html





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