覚え書:「ニュースの追跡:『ヘイト』規制法つくって 抗議参加し脅迫被害の男性 勝訴したのに…差別断罪に至らず」、『東京新聞』2015年06月04日(木)付。


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ニュースの追跡
「ヘイト」規制法つくって
抗議参加し脅迫被害の男性
勝訴したのに…差別断罪に至らず

 在日コリアンらを排斥するヘイトスピーチ(差別扇動表現)デモに抗議したところ、参加者から執拗に脅迫された日本人男性が民事裁判で賠償を勝ち取った。だが、判決は人種差別的動機に触れなかった。男性は「現行法ではヘイトスピーチに対処できない。新たな法規制が必要だ」と訴える。(白名正和)

 男性は、神奈川県平塚市で不動産業を営む伊藤大介さん(四六)。伊藤さんの会社に脅迫めいたファクスが届きだしたのは二〇一三年四月のことだ。「朝鮮ゴリラよ、お前激ヤセやな シャブでもやってんの?」「俺は夜中に人の家に行くような事はしねえから」。目を覆いたくなるような悪罵が書き連ねてあった。
 三カ月でその数は十七通に上った。メールも多い日で一日二千通が送りつけられ、会社の電話には非通知や公衆電話からひっきりなしにかかってきた。
 発端は二カ月前の一三年二月にさかのぼる。在日コリアんが多く住む東京・新大久保などで頻発するヘイトデモが、それに路上に直接講義する「カウンター」の登場をきっかけに、社会問題化しつつあった。伊藤さんはカウンターの隊列に加わった。「私は在日ではないが、社会の一員としてこんな言動を許してはいけないと考えた」
 脅迫が始まってから間もなく警察に被害届を提出した。「ヘイトスピーチをする側は匿名でしか行動できないだろうから、実害が及ぶという恐怖感はなかったが、会社に常駐する事務員は『危害を加えられるのではないか』と恐れていた」。捜査の過程で、脅迫者がヘイトデモに参加する男だと判明した。
 一三年十二月に横浜簡裁が脅迫罪で略式命令を出し、事件は集結した。続いて昨年三月、民事訴訟に踏み切った。「略式命令は私個人に対しての罪への処分だが、社会に対しての処分が必要だった。現行法がどこまで対処できるのかも確かめたかった」
 昨年十月の一審さいたま地裁判決はファクスが脅迫行為にあたると認定し、男に約九十万円の支配を命令。今年四月の二審東京高裁半稀有で男側の控訴が棄却され、判決が確定した。ただし、一審、二審とも脅迫の文言が差別にあたるかどうかの記載はなかった。伊藤さんは「ヘイトスピートやヘイトクライム(差別扇動犯罪)について触れられなかったことが非常に残念で、現行法の限界を感じた」と悔しがる。
 ヘイトスピートが刑事、民事裁判に発展したケースは少なくないが、人種差別的動機はほとんど考慮されてこなかった。学校法人京都朝鮮学園在日特権を許さない市民の会在特会)などを訴えた訴訟では昨年十二月、ヘイトスピーチの違法性を認めた判断が最高裁で確定した。しかし、伊藤さんの訴訟を見ても、人種差別を厳しく罰する司法判断は必ずしも定着していないようだ。
 日本には、「朝鮮人」のような不特定多数の集団に向けられたヘイトスピーチ自体を処罰する法律は存在しない。民主党などは先月、ヘイトスピーチを規制する「人種差別撤廃施策推進法案」を参院に提出したが、安倍政権は消極的だ。
 伊藤さんは、法規制を求めるとともに、ヘイトスピーチの攻撃対象となる在日コリアんらの被害救済の必要性を説く。
 「提訴する際には、言葉の暴力をもう一度思い出して訴状をつくらなければならなかった。在日の人たちが裁判に訴える場合は、つらい作業に違いない。被害者に時間や経済的な負担を強いることのないよう、公的機関が訴訟を代行するような仕組みも必要だ」
    −−「ニュースの追跡:『ヘイト』規制法つくって 抗議参加し脅迫被害の男性 勝訴したのに…差別断罪に至らず」、『東京新聞』2015年06月04日(木)付。

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