覚え書:「書評:線で読み解く 日本の名画 安村 敏信 著」、『東京新聞』2015年08月09日(日)付。

Resize3446


        • -

線で読み解く 日本の名画 安村 敏信 著

2015年8月9日

◆かたどられる美意識
[評者]藤田一人=美術評論家
 モノとモノ、モノと空間を分かつ輪郭線をはじめ、絵画に描かれる“線”は、現実には存在しない、人間の豊かな想像力の産物。私たちはそんな線を駆使して、自身と自身を取り巻く世界を把握しようと、試行錯誤を繰り返してきた。故に、古今東西を問わず、描線は絵画表現の基本中の基本。それでも西洋画に比べて東洋画、なかでも日本絵画における線の役割は大きいとされる。
 本書は中国、朝鮮から墨の描線が伝播(でんぱ)した奈良時代から近代に至るまで、日本美術史上の名作や巨匠の個性溢(あふ)れる作品から、日本絵画における多彩な魅力とその展開を具体的に読み解く。総合的に言えば、日本絵画の描線の魅力とは、単にモノの存在を把握し、空間を作り出すことに留(とど)まらず、モノの動き、さらには目に見えぬ気配や心理までも捉えようとする、表現の幅にある。
 なかでも日本人の等身大の美意識、表現意欲が最も顕著なのが、古代の名刹(めいさつ)に残された画工たちの落書き、中世戯画の嗚呼絵(おこえ)、そして蕪村の俳画へと繋(つな)がる、自由で軽妙な描線。私たちは日常的に、ふと浮かんだ思いや、ささやかな出来事を、率直かつ簡潔に自分の経験として留め、それを人々と共有することを望む。そのため単純な描線にも的確な対象把握と折々の心情が重ね合わさる。日本絵画の描線は日本人の情感の証しでもある。
幻戯書房・3240円)
 やすむら・としのぶ 1953年生まれ。美術史家。著書『江戸絵画の非常識』など。
◆もう1冊 
 山口晃著『ヘンな日本美術史』(祥伝社)。鳥獣戯画や白描画、雪舟など、ヘンな絵の魅力を語る独自の日本美術史。
    −−「書評:線で読み解く 日本の名画 安村 敏信 著」、『東京新聞』2015年08月09日(日)付。

        • -




http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015080902000178.html



Resize3452