覚え書:「安保関連法:強行成立 独裁、若者が止める 怒り、デモから選挙へ 思想家・内田樹さん」、『毎日新聞』2015年09月21日(月)付。

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安保関連法:強行成立 独裁、若者が止める 怒り、デモから選挙へ 思想家・内田樹さん
毎日新聞 2015年09月21日 東京朝刊
 
 安全保障関連法が成立した。集団的自衛権の行使が認められ、自衛隊の海外での活動が拡大される。一方で法案に対しては学生らが反対の声を上げ、成立後も全国で抗議活動は続く。法成立で今後の日本社会はどうなるのか、神戸女学院大名誉教授で思想家の内田樹さん(64)に聞いた。【聞き手・遠藤孝康】

 −−多くの国民が反対する中、政府・与党は採決を強行した。

 ◆国民が今一番感じているのは、「民主主義には欠点がある」ということでしょう。選挙で両院の多数派を占めれば、次の選挙まで、政権党はどんな政策でも強権的に実行できてしまう。政策が民意と離れていても、有権者には政権の暴走を止める手立てがない。

 私たちが忘れているのは「民主制と独裁は共生可能」という事実です。「独裁」の定義は「法の制定者と法の執行者が同一である」というものです。その反対概念は「民主制」ではなく、「法の制定者と執行者が別である」制度、「共和制」です。日本のように、立法府が事実上空洞化し、官邸が作った法律がほとんど自動的に国会で承認されている状態は、形式的には「民主主義的」ですが「共和的」ではありません。

 首相は委員会で「早く質問しろよ」というやじを飛ばしました。この言葉は首相自身が国会審議を単なる「アリバイ作り」のセレモニーに過ぎないと思っていることを露呈しました。法律を決めるのは官邸で、国会はそれを追認するだけなら、限りなく「独裁」に近い政体になっているということです。

 −−他国軍の後方支援など自衛隊の活動は大きく拡大する。

 ◆自衛隊員に後方支援の大義名分を納得させることができるでしょうか。大義名分を信じている兵士は強い。自分が何のためにそこにいるのか、その意味を理解している兵士はどうしたらいいかわからない状況でも、「最適解」を選択できる。でも、自衛隊員が、たとえば中東で米国の始めた戦争の後方支援に送られた場合、とっさの判断で最適解を選び取れるでしょうか。難しいと思います。大義名分がないからです。

 自衛隊員に死傷者が出れば、おそらく日本のメディアは死者を英霊にまつりあげるでしょう。そして、「派兵に大義はあったのか」という責任論を「死者を犬死にさせる気か」というヒステリックな絶叫が黙らせることになるでしょう。米国のような言論の自由な国でさえ、9・11後は政権批判がほとんど不可能になりました。日本なら、その程度では済まないでしょう。

 −−学生の反対運動が全国に広がったことは、今後の政治にどんな影響を与えるのか。

 ◆運動が盛り上がってきたのは法案が衆院強行採決された後でした。立憲政治の手続きが踏みにじられたことに対する怒りです。学生たちのスピーチを聞いていると、彼らが心から怒っていることがわかる。切実さに胸を打たれます。安倍政権の人権抑圧的な政策がこのまま次々施行されるなら、若者にとって耐え難く息苦しい社会になるということについて、彼らは身体的な違和感、恐怖感を感じていると思います。

 彼らは一法案についてだけではなく、民意をくみ上げ、異論との合意形成をはかることができなくなった今の政治システムそのものに対して「NO」と言っています。「デモの次は選挙」になると思います。来夏の参院選に向かって、彼らは「安保法案に賛成した議員は全員落とす」という運動に転換していくでしょう。6月に選挙権年齢を18歳以上に下げる法改正が成立し、参院選から240万人の新有権者が登場します。安倍政権はこの集団の政治性を低く見積もっていたと思いますが、今は後悔しているはずです。この240万人に今一番影響力を持つ組織は、「SEALDs(シールズ)」だからです。

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 ■人物略歴

 ◇うちだ・たつる

 1950年東京都生まれ。東大文学部卒業。神戸女学院大教授を務め、2011年に退職。専門はフランス現代思想。著書は「街場の戦争論」など多数。武道家でもある。
    −−「安保関連法:強行成立 独裁、若者が止める 怒り、デモから選挙へ 思想家・内田樹さん」、『毎日新聞』2015年09月21日(月)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150921ddm041010093000c.html





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