覚え書:「今週の本棚・新刊:『下中彌三郎 アジア主義から世界連邦運動へ』=中島岳志・著」、『毎日新聞』2015年09月27日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『下中彌三郎 アジア主義から世界連邦運動へ』=中島岳志・著
毎日新聞 2015年09月27日 東京朝刊

 (平凡社・2592円)

 平凡社の創業100周年記念で出版された創業者の評伝。というと苦難を経ての成功譚(たん)といったものを想像してしまうが、本書は全く違う。著者は「はじめに」で下中の思想への「強い違和感」を表明し、「受け入れ難い人物」とさえ述べている。この距離感が卓抜である。

 2歳で父親を亡くし、貧困の中で育った。1914(大正3)年の平凡社創業までが既に転変の連続だ。家業の陶工から小学校教員、雑誌編集者等々。その後も出版業のみには収まらず、大正自由教育や労働運動の指導者として団体を次々と設立するが、どれも長続きしない。1930年代から戦中にかけては「天皇帰一」を叫んで言論弾圧に加担し、戦後は一転して平和主義者となり世界連邦運動で活躍した。性急さこそ下中のキャラクターである。

 「右派/左派」の枠組みでは無節操としか映らない人物の軌跡に、著者は一貫した理想を鋭く見て取る。「下中の考える『進歩』は、日本の伝統への回帰によってなし遂げられるものだった」。こうした進歩と復古の危うい接続は、現在の日本でも起こりうる。「怪物」の人生が普遍的な意味を持つゆえんだ。(壱)
    −−「今週の本棚・新刊:『下中彌三郎 アジア主義から世界連邦運動へ』=中島岳志・著」、『毎日新聞』2015年09月27日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150927ddm015070038000c.html








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