覚え書:「田中優子の江戸から見ると:人権から考える」、『毎日新聞』2015年10月28日(水)付夕刊。

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田中優子の江戸から見ると:人権から考える
毎日新聞 2015年10月28日 東京夕刊

 江戸時代は現代とは異なる良い面がいろいろあるが、もちろん劣悪な点があった。その最大のものが、人権概念が無かったという事実である。人権は18世紀のヨーロッパで生まれた概念で、性別、国籍、年齢を問わずこの世に生きるすべての人びとが平等にもっている人間らしく生きる権利のことである。社会を無視して勝手に行動する権利でも、義務を果たさない権利でもない。公正さ、自己決定の自由、生存権が合わさって人権となる。大事なことは、人権はそれが侵されたときに要求するものだ、ということである。

 非難されることを恐れて我慢してしまうと人権意識は薄れ、社会は劣悪になる。自分のためではなく、社会と世界のために人権は要求しなければならないのだ。

 私は30年前、中国での研究から帰国したときに国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルに入った。誰にも知られず過酷な思いをしてきた同世代の中国人たちに巡り合い、国家の枠を超えた人権注視が必要だと考えたからだ。アムネスティはそのホームページの中で、「どの人権の要求の裏にも、かならず自由、公正や命を脅かされている誰かの苦しみがあります」と書いている。また、国家が取り組んだ、あるいは取り組まなかった人権政策を毎年発表している。

 沖縄県の翁長雄志知事は国連人権理事会で三つの事実を指摘した。戦後、米軍によって土地が接収されたこと、日本の国土の0・6%にアメリカ軍専用施設の73・8%が集中し事件・事故、環境問題が起こってきたこと、自己決定権をないがしろにされていることである。多くの人権問題は権力との関係で起こる。中国の人権問題もシリアの難民問題も同じだ。

 翁長知事は辺野古の埋め立て工事承認を取り消した。対立は激化するだろう。だからこそ、この問題を人権問題としても捉えておく必要がある。(法政大総長)
    −−「田中優子の江戸から見ると:人権から考える」、『毎日新聞』2015年10月28日(水)付夕刊。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20151028dde012070008000c.html


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