覚え書:「インタビュー:中国の自画像 北京大学国際関係学院院長・賈慶国さん」、『朝日新聞』2015年10月30日(金)付。

Resize4455

        • -

インタビュー:中国の自画像 北京大学国際関係学院院長・賈慶国さん
2015年10月30日

(写真キャプション)賈慶国北京大学国際関係学院長=東京都港区、天田充佳撮影

 台頭する中国の強気な外交は、日本を含む近隣の国々に困惑と懸念を呼び起こしている。南シナ海尖閣諸島をめぐる対立はどこからくるのか。アジアの「住人」でもある米国との関係をどう考えているのか。急速な大国化に伴う自己認識のゆらぎが背景にあるとみる中国外交の専門家、賈慶国さんにきいた。

 ——米国は、中ログイン前の続き国が南シナ海で埋め立てた人工島から12カイリの海域に軍艦を派遣しました。

 「米国の行為は中米関係に打撃を与えます。海洋秩序を守る目的であり、中国に対抗するものではないと言っても、中国人はそうは思わない。米国への不信を強め、将来の関係に悪影響を与えます」

 ——9月末の米中首脳会談は、緊張を緩和できなかったのでは。

 「それでも、首脳会談は成功だったといえます。(習近平〈シーチンピン〉国家主席の訪米前)多くの人の目に両国は対抗の方向へ向かっているように映っていました。それを食い止め、反転させ、安定させました」

 「サイバーにかかわる問題で対話を回復させた意義は大きい。気候変動や投資協定、軍事的な領域でも共通認識が得られました」

 ——安定したのでしょうか。南シナ海での対立はむしろ鮮明になっています。

 「南シナ海の資源がかつてより多くあると評価されだしたことも大きな原因です。関係国が権益を必死で主張しているのだから、中国もやるべきだという声が強まっています。中国を含む各国の政府に対する民族主義からくる圧力はとても大きいものがあります」

 ——国内の民族主義を利用して、中国は勢力を拡大しようとしているのではないですか。

 「発展の過程にある中国は、安定した国際環境を望んでいます。主要な課題は国内の改革と発展であり、一朝一夕に片付かない南シナ海の問題を解決することではありません。この地域の安定は『一帯一路』の実現にも必要です」

 ——習政権の近隣外交の柱とされる、中国と欧州を結ぶ陸上と海上の「シルクロード経済圏構想」のことですね。

 「『一帯一路』の重要な目的は、東南アジアの国々と経済で協力し、相互の連携や理解を強化することで関係を安定させることです。南シナ海の問題も関係国との協力を強化し、共同でうまく管理する必要があります。中国は将来、南シナ海問題で相対的に温和なやり方をとる可能性があるとみています」

     ■     ■

 ——中国は米国が主導してきた国際秩序、とりわけアジアの地域秩序に挑戦を始めたのでは。

 「中国は国連に(台湾に代わって)加盟した1971年以降、現行秩序のなかで、発展をとげてきました。国連安全保障理事会常任理事国でもあります。経済面でも、現在の貿易や金融の枠組みのなかで巨大な利益を得ています。むしろ、秩序が弱体化するほうが問題なのです。朝鮮半島の核問題にしても、海洋の航行の安全問題にしても、米国が自分たちはもうかかわらない、と手を引いたらどうなりますか」

 「ただ、今のシステムが完全に良いとは思っていません。不公平で不合理な部分もあると感じています。内部の改革を通じて変えようとしています」

——自分に都合のよい秩序に作り替えようとしている?

 「中国はかつては国際秩序を最大限利用して自らが発展すればよかった。貢献や責任は小さくてすんだ。今はそうはいきません。このシステムにただ乗りするには、中国はすでに、大きすぎます」

 「多くの人は『中国は責任を果たせ』『リーダーの役割を発揮しろ』と言います。中国は超大国になりつつあるなかで、米国のように自分でも車を運転することで国際秩序を守り、同時に自分の利益も守ることを考えるようになりました。国際秩序を守るにはコストがかかるので、他国の助けを借りる必要があります。まだ十分には分かっていませんが、多くの中国人が意識し始めました」

 ——アジア開発銀行(ADB)があるにもかかわらず、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立に乗り出しました。

 「AIIBは国際金融秩序への挑戦ではなく、補完です。最初は反対していた米国も理解し、いまは反対していません」

 「もちろん、中国政府には不満もあった。国際通貨基金世界銀行も改革の歩みが非常に遅い。新興国の発言権を高める改革が議決されても、米国の議会の反対で進まない。ならば、自ら作ろうと。当初は、自分たちが都合良く管理する銀行にできると考えていました。インフラ事業へ融資して、『一帯一路』の実現に役立てようと。しかし、やっているうちに各国の支持がなければ期待する成果は得られないと気づいたのです」

 「他国は自分に利益があると思わなければ加わらない。中国は多国間組織でのリーダーのあり方を学習しているところです。まず、多くの人に共感を得られる考えを提示できなければなりません。協力を実現できる経済力も必要です。そして、多くの国家の利益を調和させなければならない。自国の利益や価値観にこだわる欧州の先進国と協調しながら学ぶことができれば、中国にも世界にも良いことだと思います」

 ——10月初めには環太平洋経済連携協定(TPP)に日米を含む12カ国が合意しました。中国はどうしますか。

 「中国経済の開放度はTPPの基準には達していません。基準に達すれば、自然に加わっていくでしょう。肝心なのは、中国自身が対外開放の程度を引きあげていく努力です」

 ——TPPは安全保障の観点から、中国への対抗との見方もあります。

 「安全保障の観点から考えれば中国を排除するほうが安全ではありませんよ。ゼロサムゲームで考えると国際関係は暗闇です。中国人にもそういう人はいます。しかし、現実はすでにそれを超えています。冷戦の時代は過ぎ、人々の生活はすでにグローバル化している。建設的に国際関係を分析し、処理していくべきでしょう」

     ■     ■

 ——それにしても、中国は、日本との間では問題が発生すると首脳を筆頭に対話を断ち切るのに、米国には会うのですね。

 「米国が例外なのです。(欧州諸国と比べても)米国が中国に与える影響がとても大きいからです。かつては、軍事交流はたいした影響がないと考えて断つこともありましたが、最近は違います。両国の根本的な利益を考えて、強化する対象になっています」

 ——習政権のスローガン「中国の夢」が持つ外交的な意味はなんですか。

 「『中国の夢』は近代史に根ざしたものです。強大だったはずの中国が、アヘン戦争以降、侵略されて主権は踏みにじられ、領土を奪われました。独立、自主、繁栄、富強を得て、世界で尊重されたい。これが中国の夢です」

 ——尊重されているでしょう。

 「外国が中国を見る目と中国人が中国を見る目は違います。中国からすれば、過去よりも豊かになったが、それほどまだ発展していない。強大になったといえども米国ほどではない。そして、中国人が十分だと思うほどには尊重されていません。国際問題が中国抜きで決められることもある。中国内部の問題に批判がたくさん寄せられる。中国人にしてみれば、気分が良くないのです」

 「ただ、中国自身にも問題はあります。中国は移行期にあり、アイデンティティーと利益が矛盾する面がたくさんあります。中国は発展途上国であり、発展している国である。貧しい国であり、富んだ国である。強い国でもあるが、弱い国でもある。普通の国であり、超大国でもある。たとえば、気候変動で、途上国であれば発展する権利を重視する。先進国ならば省エネや二酸化炭素の削減を重視する。中国はどちらの立場だと認識し、どういう利益を得るために行動するのか」

 「得たいと思う利益を確定させることが対外政策の基盤ですから、この矛盾が世界に困惑を与えています。中国はいったい何がほしいのか、何をしたいのか。中国自身が自分の立場や利益を確定しきれておらず、困惑と心配を引き起こしてしまう。一貫性のない混乱したメッセージを発信することにもなり、外国は中国の脅威に備えた対策をとろうとする。それに中国も反応する。将来、そこが安定すれば、もっと一貫性があり、予見可能性のある対外政策に落ち着くと思います」

     *

 チアチンクオ 1956年生まれ。専門は中国外交、米中関係。中国の国政助言機関である全国政治協商会議常務委員。米コーネル大学で博士号取得。

 ■取材を終えて

 中国外交も一色ではない。中国共産党・政府の内側には強硬派もいれば協調派もいる。最近の言動を見れば、国力の増大を過信した前者が優勢と言える。「超大国」を目指すつもりであれば協調の作法を学ぶべし——。賈さんの言葉には、自画像がゆがむ国内の強硬派こそ耳を傾けるべきかもしれない。(編集委員・吉岡桂子)
    −−「インタビュー:中国の自画像 北京大学国際関係学院院長・賈慶国さん」、『朝日新聞』2015年10月30日(金)付。

        • -


http://www.asahi.com/articles/DA3S12041911.html





Resize4457

Resize4204