覚え書:「やなせ先生の贈り物、愛と勇気 「愛弟子」の作家・小手鞠るいさん、思い出をエッセーに」、『朝日新聞』2015年11月13日(金)付。

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やなせ先生の贈り物、愛と勇気 「愛弟子」の作家・小手鞠るいさん、思い出をエッセーに
2015年11月13日

 愛と勇気のヒーロー「アンパンマン」を生んだ漫画家で詩人のやなせたかしさんが94歳で亡くなったのは、おととし10月13日でした。そして2年。手のひらを太陽にかざし、希望をもって、子どももおとなも生きています。アンパンマンが心にいるから。「先生」と40年余り慕い続けた作家の小手鞠(こでまり)るいさん(ログイン前の続き59)に話を聞きました。アンパンマンのメッセージとは――。

 「やなせ先生にほめられると、いい子、いい子って頭をなでられたような気がした」

 思い出したようにクスッと笑う小手鞠さん。「エンキョリレンアイ」など恋愛小説の名手だが、スタートは詩だ。

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 岡山育ちの小手鞠さんは13歳のとき、雑誌のプレゼントでやなせさんの詩集が当たり、ファンになった。やなせさんが1973年に創刊した月刊誌「詩とメルヘン」に投稿し、81年に詩とメルヘン賞を受賞。初めて会った頃から折にふれ、こう励まされた。

 「続けることが大切だよ。ぱっと咲いてぱっと散るのは誰にでもできることだけど、路肩で咲き続けることのできる人はなかなかいない」

 それから10年ほど後、フリーライターとして様々な原稿を請け負うようになっていた30代。胸に刺さった一言がある。

 「いまのままじゃダメだ。いまいちなんだ。一度でいい、脚光を浴びないと二流で終わってしまう。華がないといけないんだよ」

 好きな仕事を続けることは厳しい道だと覚悟せよ、と愛弟子(まなでし)を見こめばこその一撃。谷に突き落とされた子ライオンのような小手鞠さんに「いまいち発言」は刻まれた。

 私は小説を書きたかったんだ。書こう。「この一言で人生の目標をもらったのです」

 アメリカに渡った小手鞠さんは短編小説を手がけ、93年に海燕(かいえん)新人文学賞を受賞。その後、編集者にめった切りにされても、恋愛小説を粘り強く書き直した。それは「欲しいのは、あなただけ」に結実した。2005年島清(しませ)恋愛文学賞を受ける。

 子ライオンは「いまいち」の谷をはい上がったのだ。

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 やなせさんは5歳で父を亡くし、母が再婚して、伯父にひきとられた。海軍に入った弟は22歳で戦死している。

 小手鞠さんは言う。「先生の根源的な寂しさが詩の言葉をうんだのだと思う」

 やなせさんの代表作の絵本「やさしいライオン」では、みなしごライオン「ブルブル」を犬が母親のように慈しむ。大きくなって母さん犬と離されたブルブルは、ただ会いたさのあまりサーカスのオリを飛び出すが、人間にとっては危険な存在とみなされ、撃たれてしまう。

 やなせさんの作品の底にあった、愛と厳しさ。

 パンの顔をした今のアンパンマン(当初は絵本の「あんぱんまん」)は73年にうまれ、80年代末にテレビ放映から爆発的な人気を得る。やなせさん、70歳の華だった。

 三回忌を前に、小手鞠さんは交流をつづったエッセー「優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物」(講談社)を出した。犬の物語の挿絵を描くよと、やなせさんが約束してくれていた小説「テルアビブの犬」(文芸春秋)も出版した。貧困のもとに育った少年が世の中を変えようとする物語だ。

 小手鞠さんは児童書に力を入れるつもり。「先生は愛と献身を示された。先生からいただいたものを、今度は私が子どもたちに届けたい」

 (河合真美江)
    −−「やなせ先生の贈り物、愛と勇気 「愛弟子」の作家・小手鞠るいさん、思い出をエッセーに」、『朝日新聞』2015年11月13日(金)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12064506.html





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