覚え書:「今週の本棚・新刊:『子どもたちへ、今こそ伝える戦争』=長新太ほか著」、『毎日新聞』2015年11月15日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『子どもたちへ、今こそ伝える戦争』=長新太ほか著
毎日新聞 2015年11月15日 東京朝刊

 (講談社・1944円)

 戦後70年で、人の記憶を考えると戦争を実体験として語れる人は70歳を超えている。新しい世代が戦争の悲惨さ、愚かしさをじかに教わることは今後いっそう難しくなる。

 『からすのパンやさん』のかこさとし、『かんがえるカエルくん』のいわむらかずお……。身をもって戦争を知る児童文学者ら19人による貴重なアンソロジーで、「小学校中学年以上」を想定し、漢字全部にルビを振る。とはいえ、子どもの心をつかんできた作家たちだ。どの文章も大人の心をわしづかみにする。

 19人のうち、田島征三(たしませいぞう)は幼いころの過酷な体験を記したあと、こう問う。<いま、たいていの人々(ひとびと)は「戦争反対(せんそうはんたい)」だ。でも、あしたも「反対(はんたい)」といえるだろうか?>。子どもを相手に、手加減はしない。<なにかをきっかけに「となりの国(くに)をやっつけろ!」という声(こえ)が「戦争反対(せんそうはんたい)」という声(こえ)より大(おお)きくなって、いつのまにか「反対(はんたい)」といえなくなる>

 戦争体験は風化し、隣国の脅威や抑止力が声高に語られ、ヘイトスピーチが盛り上がる。自衛隊の戦争参加を条件付きで認める安全保障法制もできた。田島の言う<あした>はまさに今のことだと思う。(え)
    −−「今週の本棚・新刊:『子どもたちへ、今こそ伝える戦争』=長新太ほか著」、『毎日新聞』2015年11月15日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20151115ddm015070046000c.html


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