覚え書:「思い出す本 忘れない本 赤江珠緒さん(アナウンサー)と読む『人にはどれほどの土地がいるか』 [文]大上朝美」、『朝日新聞』2015年12月20日(日)付。

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思い出す本 忘れない本
赤江珠緒さん(アナウンサー)と読む『人にはどれほどの土地がいるか』
[文]大上朝美  [掲載]2015年12月20日

(写真キャプション)赤江珠緒さん(アナウンサー) TBSラジオ「たまむすび」パーソナリティー、同テレビ「この差って何ですか?」の司会など=西田裕樹撮影

■めでたくない結末に衝撃

 『人にはどれほどの土地がいるか』/『トルストイ民話集 イワンのばか 他八篇』所収 [訳]中村白葉   (岩波文庫・648円)

 家にある本にタグをつけて「図書館ごっこ」なんかするほど、小さい頃から本は好きで、中でも強烈に残っているのがこの話。ロシアや中国など各国の民話を集めた本の一編だったので、書いたのはトルストイさんだったんだと、大人になってから、知りました。
 ふつう「めでたしめでたし」で終わる話が多いのに、これは衝撃的でしたね。働き者だけど自分の土地を持たなかった農民が、悪魔との取引と知らずに「歩ける限りの土地をくれる」という言葉に乗せられ、歩いて歩いて、倒れて死んでしまう。結局、人には最後に自分の体を埋める土地さえあればいい−−短いお話だけど、タイトルと終わり方にガーン!と来ました。でも、そう言われれば人間、最終的に、必要なものはそんなにないなと子どもながらに思って、いまも自分の根本のところにあるような気がします。
 民話やイソップ、ギリシャ神話などにひかれ、何度も繰り返し読みました。いまだにじわじわ効いている、というより仕事をするようになった今こそ、自分を支えてくれているなと思うんですよ。シンプルな物語の中に人間の欲とか社会の仕組み、コミュニケーションの取り方とか、さまざまな知恵が詰まっているんですね。
 アナウンサーは言葉を操る仕事ですが、上手にしゃべれてもうまく伝えられるとは限らない。本気の熱量がなければと思います。ラジオでは、隠しきれない地がぼろぼろ出て恥かいてますけど。テレビも含め、華やかな仕事と思われがちですが、「人にはどれほどの土地がいるか」と、冷静にさせてくれてますね(笑い)。
 私が読んだのは小学校低学年ですが、いま絵本や漫画以外の児童書が減っているんじゃないでしょうか。甥(おい)や姪(めい)にと探しても、本屋さんにあまりない。ハッピーエンドもバッドエンドも、子どもだからこそ心の中に、いろんな色を入れてあげられたらいいと思うんです。
 (構成・大上朝美)
    −−「思い出す本 忘れない本 赤江珠緒さん(アナウンサー)と読む『人にはどれほどの土地がいるか』 [文]大上朝美」、『朝日新聞』2015年12月20日(日)付。

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