覚え書:「オリジナル?:4)国家 雄弁な「日本らしさ」よりも 武田砂鉄」、『朝日新聞』2016年1月7日(木)付。

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オリジナル?:4)国家 雄弁な「日本らしさ」よりも 武田砂鉄
2016年1月7日

 オリジナルには「起源の」という意味もある。アイデンティティー、つまり自分や集団の「らしさ」と、密接にかかわることばだ。だから人は国家のオリジナリティーを語る時、とりわけ雄弁になる。

 安倍晋三首相は年末の講演で、ノーベル賞受賞者から羽生結弦(はにゅうゆづる)選手まで、昨年活躍した人たちをよりどりみどりに挙げ、困難をバネに飛躍する「日本」のイメージをつくり上げた。

 『紋切型(もんきりがた)社会』を書いたライターの武田砂鉄さんはツイッターで、「豪華盛り合わせ……結婚式で聞いた記憶あり」とつぶやいた。

 「『日本』という言葉が、なんでもつめこめる大きな袋になったようだ。大きい袋に自分のやりたいことをこじつけ的に入れることもできる。袋に入りたくない人、入れない人は、はみだしものになる」

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 「日本らしさ」には長所も短所もあるはずだ。だが最近は、仕事のきめ細かさなど、理想的な「らしさ」だけをすくい取り、日本を自賛する言葉が氾濫(はんらん)する。同時に、「反日韓国」「エセ日本人」など「他者」をつくることで、日本像の輪郭を示す語り方も目立つ。

 金沢大の仲正昌樹教授(政治思想史)は、「日本の『本来の輝き』を取り戻したいと考えるが、何をどう改善すればいいのかわからない。だから抽象的な敵を想像し、そのせいで輝けないのだと思おうとしている」と分析する。仲正さん自身は、契約よりも人間関係で成り立つ組織形態など、生活に根ざした慣習に日本らしさを感じる。「周りにそんな共同体があり、守るべきものが見えている人は、逆に日本らしさなどあまり気にしないのでは」

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 停滞に苦しむ先進国は、過去の成長期に「オリジン(起源)」を求める。そう指摘するのは吉田徹・北海道大教授(比較政治)だ。

 近年の先進国の街頭デモは、革新を目標にするのではなく、戦後成長期の調和ある安定的な社会を理想とし、その価値の回復を目指しているという。日本でいえば、解釈改憲による安保法制に反対して昨夏国会前で盛り上がった運動と、雇用や社会の不安定化を外国人のせいにするヘイトスピーチ。思想的には異なるが戦後に理想を見る点は通じる。欧州でも、極右と極左がともに、戦後の豊かさを取り戻そうという立場で運動している。低成長の割を食う若者が主な担い手だ。

 国家が多様な人を包摂できなくなる中、過激派組織「イスラム国」(IS)など国家とは別のアイデンティティーが、はぐれた人々を吸い寄せる。吉田さんは「『オリジナル』なものに基づき国家を定義すれば、必ず誰かを排除することになり、かえって国の力は弱まる。国の中では個人化、外ではグローバル化が避けられない中で、オリジナルを求めるよりどういう『コンセプト』で国をつくり、異なるオリジンを持った人たちを包摂するのかが問われる」と話す。「国や民族が異なっても、慈しみや平和など『正』とされる価値はそれほど変わらない」

 差異を前提に普遍性を求めると、行き着くのはいわば「人間らしさ」か。「違い」と「同じ」のはざまで、オリジナルは常に更新されている。(高重治香)

 =おわり

 〈+d〉デジタル版にインタビュー
    −−「オリジナル?:4)国家 雄弁な「日本らしさ」よりも 武田砂鉄」、『朝日新聞』2016年1月7日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12147380.html





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