覚え書:「特集ワイド:甘利氏発言にみる政治とカネ 「いい人とだけ付き合っては選挙に落ちる」」、『毎日新聞』2016年02月09日付夕刊。

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特集ワイド
甘利氏発言にみる政治とカネ 「いい人とだけ付き合っては選挙に落ちる」

毎日新聞2016年2月9日 東京夕刊


 「清濁併せのむ」−−。「善悪の分け隔てをせず、来るがままに受け入れること」と広辞苑にある。度量の大きさを示す褒め言葉として使われることが多いが、政治家としてはどうなのか。そう、テーマは金銭授受問題で経済再生担当相を辞任した、甘利明衆院議員の「あの発言」である。【葛西大博、小国綾子】

 「あんなふうに開き直れるのは、『きれいごとだけで政治がやれるか』という『オッサン政治』の文化に守られているからです。内輪では批判されないという慢心が透けて見えます」

 「いい人とだけ付き合っているだけでは選挙に落ちる」という甘利氏の発言(別項参照)を鋭く批判するのは、「全日本おばちゃん党」を主宰する大阪国際大准教授、谷口真由美さん(国際人権法)である。「だいたい、小選挙区制だから悪い人と付き合わないと落選するというなら、制度が悪いわけでしょう。そんな制度なら見直すのが政治家の仕事じゃないですか」

 元高校教師で教育評論家の「夜回り先生」こと水谷修さんも、こう憤る。「18歳選挙権がスタートして、これから自分の1票で日本を変えていくと考えている若者たちにとって、甘利氏の発言が与えた悪影響は計り知れません。私の周囲の高校生からは『結局、政治はカネに汚いものなのか』『そうでないなら、なぜ他の政治家も、違うと強く言わないの?』という声が上がっています。政治家がこのていたらくで、若者に政治への関心を高めろとか投票に行けとか言えますか」

 週刊文春が、甘利氏の秘書が千葉県の建設会社と都市再生機構(UR)の補償交渉を巡り、口利きを依頼され現金を受け取ったと報道したことから始まったこの騒動。甘利氏は記者会見で、この建設会社側から2013年11月に大臣室で50万円、14年2月に神奈川県大和市の地元事務所で50万円の計100万円を受け取ったことを認めた。秘書も建設会社側から受け取った500万円のうち、200万円しか政治資金収支報告書に記載せず、残り300万円を私的に使っていたという。

 既に、その違法性を問う動きもある。「政治資金オンブズマン」共同代表の上脇博之・神戸学院大法学部教授らは、政治資金規正法違反(虚偽記載)や政治家の口利きを取り締まるあっせん利得処罰法違反の疑いがあるとして、秘書らの刑事告発を検討中だ。

 そうした疑惑に劣らないインパクトで茶の間を驚かせたのが、経済再生担当相を退くと発表した先月28日の記者会見での甘利発言だった。ここは、他の政治家や秘書の言い分も聞こう。

 「政治家には常にいろいろな人が寄ってくる。リスクを見ながら、ぎりぎり拒まない範囲でどう付き合うかを判断しないといけない」。民主、維新両党の甘利氏の問題に関する「疑惑追及チーム」のメンバーである福島伸享衆院議員(民主)は、甘利氏の「来る者拒まず」発言についてこう語る。実際、仕事の世話をしてほしいと現金を持参する人もいる。「ただ、いきなりお金を持ってくる人には無条件に警戒するし、そんなお金は絶対に受け取らない。大臣室でお金を受け取っておかしいと思わない感覚は、私には信じられません」と、甘利氏の行動を批判する。

 自民党議員に長く仕えたベテラン秘書は「『口利き』というと悪いイメージだが、『陳情』は日常茶飯事です。その場でお金が動くことはないが、普段から後援会でお世話になったり、パーティー券を買ってもらったりしている支援者から陳情があれば、秘書は担当の役所に一緒に行って話をつなげることはある」と打ち明ける。

 甘利氏は政界屈指の資金力を誇る。資金管理団体「甘山会」の14年の収入は1億1383万円で、国会議員の資金管理団体の中で4位だ。ベテラン秘書は「1億円を超える金は、なかなか集められるものではない」と舌を巻く。

「来る者拒めぬ小選挙区」 企業献金禁止せぬ首相

 甘利氏の「いい人」発言を「本音だから」と容認する声があることを危惧するのは谷口さんだ。「理想論が疎んじられ、人を攻撃する発言までが『本音』ともてはやされる今の風潮も、影響しているのではないか。政治家の開き直りが『かっこいい』と評価されるようになったら、政治家はやりたい放題ですよ」

 では、「小選挙区だから選挙に落ちてしまう」という部分はどうか。

 1選挙区で1人しか当選できない「小選挙区」だと、なぜ「来る者は拒まず」になってしまうのか。あるベテラン秘書は「(当選者が複数の)中選挙区時代なら、自分を支持してくれる組織や団体票をまとめれば当選した。しかし小選挙区制では1票でも相手候補を上回らないと勝てないので、人を選ぶ余裕がなく、幅広く付き合わないといけないんです」と解説する。

 そもそも、政治家や秘書をカネで動かして利益を求めるという発想になるのは、「政治とカネ」を取り締まる法律に問題があるからではないのか。

 例えば、政治資金規正法には抜け道が多いという指摘は根強い。国が補助金を交付した企業は1年間、政治活動への寄付をしてはならない。ところが、国費を原資とする補助でも、国や自治体の関係する団体を経由して企業が補助金をもらえばルールの適用外だ。さらに「試験研究」や「災害復旧」などの補助金を国から直接受けている企業も、政治家に献金できる。

 「政治資金オンブズマン」共同代表の上脇さんは「いずれも、税金が国会議員に還流しているのは同じですから、政治資金規正法は『ザル法』と言われても仕方ない。企業・団体献金は全面禁止されるべきですが、自民党政権のもとではできないとしても、せめて、補助金を一度もらった企業は交付決定から1年に限定せず、最後の受け取りから10−20年の期間も例外なく献金を禁止するくらいの改革がなされるべきです」と指摘する。

 税金で政党活動を支えることで、不透明な政治献金をなくすことを目的に導入されたのが、政党交付金制度だ。1995年1月の施行後、企業・団体献金は5年後に廃止を含めた見直しをするはずだったが、いまだに存続したままだ。3日の衆院予算委で、企業・団体献金禁止に向けリーダーシップを発揮すべきだと迫られた安倍晋三首相。「問題はカネで政策や政治をねじ曲げてはいけないということで、企業・団体献金だろうと個人献金だろうと同じだ」が答えだった。

 交友関係が「いい人ばかり」(3日の衆院予算委員会で甘利発言を問われての答弁)の首相に指導力発揮を期待するのは難しいのか。このままでは、また別の政治家が同じ問題を繰り返すだけかもしれない。

経済再生担当相辞任の記者会見での甘利氏の発言(1月28日)

 (政治家に接近してくる人物と選挙の関係について問われ)

 政治家の事務所は、いい人とだけ付き合っているだけでは、小選挙区だから選挙に落ちてしまう。かなり間口を広げて、来る者は拒まずとしないと残念ながら当選しない。その中で、ぎりぎりどう選別していくか。だから、問題ある人との写真がいっぱい出るが、誰も避けられない。パーティーで(一緒に)写真を撮ってくれと言われて、「どなたですか、ああ、あなたとは撮りませんよ」なんて絶対言えない。(略)よほど知られている反社会(勢力)の代表みたいな人だったら危ないと分かるだろうが、避けられない。企業であれば、その企業がどういう会社か、徹底的に調べておくことが大事だ。うちも実はそうさせている。(甘利氏の資金管理団体の)甘山会のメンバーに入るときは、選挙区内なら分かるが、選挙区外だったら、そこの選挙区の代議士に問い合わせるなどやらせているが、これが甘かった。
    −−「特集ワイド:甘利氏発言にみる政治とカネ 「いい人とだけ付き合っては選挙に落ちる」」、『毎日新聞』2016年02月09日付夕刊。

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