覚え書:「今週の本棚・新刊 『近衛文麿』=古川隆久・著、日本歴史学会・編集」、『毎日新聞』2016年2月7日(日)付。

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今週の本棚・新刊
近衛文麿』=古川隆久・著、日本歴史学会・編集

毎日新聞2016年2月7日 東京朝刊
 
 (吉川弘文館・2376円)

 近衛は、日本現代史で屈指の有名人だ。その生涯については多くの類書があり、抜きんでるのは容易ではない。さらに言えば、評伝を書くのは難しい。対象への強い関心がなければ、書き続けることすらできない。好き嫌いにかかわらず、思い入れが過剰だと資料をみる目が曇る。著者は冷静な視線で、近衛像を構築してゆく。

 意志が弱く定見がない。人気取り政治家、つまりポピュリスト。近衛にはそうした印象が強い。本書はこうした「定説」にくみしない。いわく<政治上の主張や手法の一貫性が高く……おおむね一身の毀誉褒貶(きよほうへん)を度外視して活動>した。金権政治とは無縁。多数の具体例を基に評価する。信念を持ちクリーンな政治家ともみえる。しかし<政治家としての業績を肯定的に評価することは到底不可能である>と断じる。一方、近衛個人の責任だけでなく、大日本帝国の国家制度そのものに欠陥があった、という指摘も鋭い。

 研究成果を積み上げて評価すべきはし、批判すべきはする。『昭和天皇』(中公新書、2011年)でみせた筆致がここでも光る。信頼できる近衛評伝だ。(栗)
    −−「今週の本棚・新刊 『近衛文麿』=古川隆久・著、日本歴史学会・編集」、『毎日新聞』2016年2月7日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『近衛文麿』=古川隆久・著、日本歴史学会・編集 - 毎日新聞


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