覚え書:「今週の本棚・この3冊 野坂昭如 黒田征太郎・選」、『毎日新聞』2016年03月13日(日)付。

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今週の本棚・この3冊
野坂昭如 黒田征太郎・選

毎日新聞2016年3月13日 東京朝刊

 <1>アメリカひじき・火垂るの墓野坂昭如著/新潮文庫/562円)

 <2>野坂昭如ルネサンス(6) 骨餓身峠死人葛(野坂昭如著/岩波現代文庫/品切れ)

 <3>戦争童話集(野坂昭如著/中公文庫/555円)

 前略。野坂昭如様 そちらはどうなのでしょうか? ゆっくりと休まれていますか? それとも、あい変わらず世の中のことが気がかりでアレコレと考えておられるのでしょうか?

 こちらはます〓よくない方向にまっしぐらです。野坂さんが心配されていたように、これからの子供達に明るい未来は望めないと思います。「教えてください」。僕が野坂さんから教わったな(、、、、、)と感じた小説の最初が『アメリカひじき・火垂(ほた)るの墓』でした。六歳で爆弾を体験して、理由不明のままアメリカ兵がカッコイイと育った僕にとって、戦争とは敗戦とは、なんなのかをすりこんでくれたのが、この本でした。

 そして、次の『骨餓身峠(ホネガミトウゲ)死人(ホトケ)葛(カズラ)』というなにやら不吉な感じのする物語で教えていただきましたのが人は人を差別することでしか生きていけない、ということでした。それと共に戦場というのはどこにでもアル(、、、、、、、)ということを教わった気がしました。アメリカコンプレックスのカタマリのように生きている自身が嫌で、いっそアメリカで生活しようと住みついたニューヨークで出会ったのが一冊の文庫本『戦争童話集』でした。戦後五十年という節目で出会ったこともあったのでしょうが、童話集の行間から戦後(、、)などという言葉は人間の歴史にはナイ、戦争で巻き添えにされるのは人間だけでなく自然の全てだ、とおっしゃる野坂さんのコトバに動かされてしまいました。童話集を沢山(たくさん)の人達に知らせたい。そんな気持ちになる自分自身を横目でみるように絵本化し、映像化し、<忘れてはイケナイ物語り>プロジェクトとして集まった僕達は野坂流を世に拡(ひろ)めようと動き出しました。ひとつのコトバが、一冊の本が、人を動かす力になるのだということにおどろきながら、現在も、ゆっくりと<忘れてはイケナイ物語り>は続いています。

 フクシマ原発のことだって、もう十数年も以前から野坂さんの心配性と想像力が予知されていたことは知っています。小説家・野坂昭如さんのコトバに動かされるように絵のようなモノを描かせていただいていました僕は世間からコンビなどと呼んでもらうたびに「とんでもない」と思っておりました。僕は野坂さんに教わった生徒のような者なのです。学校がキライで中学にすら足が向かなかった僕にとって、この三冊はよき教科書なのです。この三冊をもっと僕なりに理解して、次の人達に僕がバトンタッチしていこう。そう思っています。
    −−「今週の本棚・この3冊 野坂昭如 黒田征太郎・選」、『毎日新聞』2016年03月13日(日)付。

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今週の本棚・この3冊:野坂昭如 黒田征太郎・選 - 毎日新聞



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