覚え書:「読書日記 著者のことば 和合亮一さん」、『毎日新聞』2016年03月15日(火)付夕刊。

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読書日記
著者のことば 和合亮一さん

毎日新聞2016年3月15日 東京夕刊
 
 ■昨日ヨリモ優シクナリタイ(徳間書店・1944円)

癒えない傷の先に

 5年前の春、東日本大震災と未曽有の福島第1原発事故に直面し、ツイッターでひたすら言葉を発し続けた。「ノンフィクション性に導かれた詩集『詩の礫(つぶて)』(徳間書店)の同一線上に今、新たな扉が開かれていると感じます」。福島在住の詩人にとって15冊目の詩集となる。

 原発再稼働に突き進む政府と電力業界、喪失から立ち直れない被災者に「復興」を強いる風潮−−。そして非情な風化に立ち向かいながら、2年をかけて紡いだ79の詩編を収めた。

 「五年」「除染」「海という文字の中に」など癒えることのない傷を焼きつけるような詩の数々。だが、それだけではない。最後に書き上げた「もしもし」には震災を直接イメージさせる言葉は見当たらない。

 「この散文詩を巻頭に選んだのは、震災の経験を真ん中に置いて普遍的なものと対話するような詩を求めたからです。人生とは何か、生きるとは何か、そういうところまで考える時期に来ていると思います」

 全国を講演し、福島の問題を自らのこととして捉える多くの人たちとの出会いが、そうさせたという。

 <この夜も はかりしれない量の水が/世界のどこかで/蛇口が ゆるんだままで/流されている どうすることもできないのか>

(「蛇口」より)

 詩のイメージは、学校施設の出しっぱなしの水道水から原発汚染水へ、さらには震災で亡くなった肉親を思い、一晩中泣き続ける仮設住宅暮らしの女性へと広がってゆく。その先に尽きることのない悲しみそのものの本質が現れる。

 震災前、6冊のシュールレアリスム詩集を出した。半ば固定化した詩のイメージが震災に突き崩された。「言葉を吐き出し続けて空っぽになった後、自分にとって必要なのは形式やテーマではなく、新鮮な何かがそこにあるかないかだけなのだ、と知りました」

 詩作に向かわせた原動力は、シベリアに抑留された祖父の死に象徴される「不条理」だった。言葉を拾い集めるように震災後の日々を過ごし、こう悟った。「不条理を内在させて詩を書くことは、20歳の頃から少しも変わっていないのだ」と。<文・井上卓弥/写真・望月亮一>
    −−「読書日記 著者のことば 和合亮一さん」、『毎日新聞』2016年03月15日(火)付夕刊。

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