覚え書:「今こそガンディー:搾取は「経済の暴力」、強く批判」、『朝日新聞』2016年03月21日(月)付。

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今こそガンディー:搾取は「経済の暴力」、強く批判
2016年3月21日
 非暴力、人間の真の独立を、日々の営みの中に見いだした。

 ガンディーは、インドが単に英国から政治的に独立すればいいとは思っていなかった。本当の非暴力とは、人間のあるべき姿とは何かを、人々に説きつづけた。

 そんなガンディーの影響を受け、自らワタを育て、糸を紡ぎ、衣服をつくる女性がいる。広島県福山市の片山佳代子さん(53)。各地で開かれる糸紡ぎの講習会にも招かれる。1993年から2年間、夫の仕事の都合でインドに住み、ガンディーに関する本を読んだのがきっかけだった。

 英国は18世紀の産業革命以降、機械でつくった大量の綿製品を植民地化したインドに売りつけた。これにより、英国は栄え、綿織物が盛んだったインドには多くの失業者が生まれた。

 富める者が貧しい人々から搾取することで発展するシステムを、ガンディーは「経済の暴力」と痛烈に批判した。「機械文明が人間を狂わせている」と考え、糸車(チャルカ)で自らの衣服を作るよう呼びかけた。

 片山さんは「誰かを犠牲にしてできた物を極力買わず、日常に必要な物を自分たちの手で作り出すことこそ、非暴力、真の独立であると知った」と話す。

 ガンディー特集を組んだこともある英国の環境雑誌「リサージェンス」の編集長で、インド出身のサティシュ・クマールさんも「近代社会では、経済のために資源があり、教育があり、人間活動がある。しかしガンディーは、経済は人間活動の助けとしてあるべきだと考えた」と話す。

 ただ、自給自足や簡素な生活を重んじるガンディー思想は、時に「時代錯誤」と敬遠された。ガンディーを「マハトマ(偉大なる魂)」と称したノーベル賞詩人タゴールですら、英国への非協力運動を「地方気質の最悪の形式」と批判した。

 これに対し、『身の丈の経済論 ガンディー思想とその系譜』を著した、香川大学の石井一也教授は「世界中が経済発展を求めたら、地球はどうなるのか。ガンディー思想は現代社会の限界を鋭くついている」と指摘する。

 人間活動が環境や生態系にかける負荷を示す「エコロジカル・フットプリント」(2012年)の指標では、地球上すべての人間が日本人と同じ水準の食生活をした場合、地球1・6個分の資源が必要とされる。「物質的な豊かさを求めて、より激しく資源を奪い合うのか、将来世代のことも考え、簡素な生活に満足を見いだすのか。私たちは岐路に立たされている」と石井教授は言う。

 しかし人間の欲望は、このグローバル社会において、一層、花開いているように見える。その先にあるのは——。

 絶望しか見いだせなくなった時こそ、ガンディーの言葉に耳を傾けたい。

 「良きことはカタツムリのように、ゆっくりと進む。利己的な悪(あ)しきことには、翼が生えている。家を建てるには、時間がかかるが、それを破壊するのは、一瞬のことであるように」(浅井幹雄監修『ガンディー魂の言葉』から抜粋)(山田理恵)

 <足あと> M.K.Gandhi 1869年インド生まれ。88年、弁護士になるため渡英。93年、南アフリカで人種差別を経験。1915年、インド帰国。英国への非協力運動を展開。30年、インド人の塩製造を禁止する法に反対し、「塩の行進」を行う。47年、インド独立。ヒンドゥー教イスラム教の融和を説くが、48年、ヒンドゥー教至上主義の男性に銃で撃たれ、死亡。

 <もっと学ぶ> 糸車については『ガンジー自立の思想 自分の手で紡ぐ未来』(地湧社)が詳しい。国立ガンディー博物館の英語サイト(http://gandhimuseum.org/別ウインドウで開きます)では、ガンディーの映像が見られる。

 <かく語りき> 「現代社会に巣食う七つの大罪とは……。理念なき政治 労働なき富 良識なき快楽 貢献なき知識 道徳なき商業 人間性なき科学 献身なき信仰」(『ガンディー魂の言葉』から抜粋)

 ◆過去の作家や芸術家らを学び直す意味を考えます。次回は28日、漫画家の長谷川町子の予定です。
    −−「今こそガンディー:搾取は「経済の暴力」、強く批判」、『朝日新聞』2016年03月21日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12268749.html





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