覚え書:「Interview:柴田元幸(米文学者・翻訳家) 絶版の名作復刊、新訳も 村上春樹と「村上柴田翻訳堂」刊行開始」、『毎日新聞』2016年04月18日(月)付夕刊。

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Interview
柴田元幸(米文学者・翻訳家) 絶版の名作復刊、新訳も 村上春樹と「村上柴田翻訳堂」刊行開始

毎日新聞2016年4月18日 東京夕刊
 柴田元幸さん=鶴谷真撮影
 新潮社は今月、新潮文庫の新たなシリーズ「村上柴田翻訳堂」の刊行を始めた。作家の村上春樹さんと米文学者・翻訳家の柴田元幸さんが、現代の米英文学の中の古典的名作が相次いで絶版となっているのを残念に思ったのがきっかけ。2人が4作品を新訳し、2人以外が過去に翻訳した6作品を復刊。今年11月までに計10冊がそろう。復刊本には、今読む意義をテーマにした村上さんと柴田さんの対談を収録する。第1弾はカーソン・マッカラーズ『結婚式のメンバー』(村上さん訳)とウィリアム・サローヤン『僕の名はアラム』(柴田さん訳)だ。

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 『僕の名はアラム』は、トルコの弾圧から逃れたアルメニア移民の子として生まれた9歳のアラムが主人公または視点人物となり、素朴な日常の冒険が「ユル」い筆致でつづられる。作家自身が少年時代を過ごした米カリフォルニアを舞台とし、時代は第一次大戦と第二次大戦の間だ。

 柴田さんは「移民文学はメインストリーム(主流派)との対立をテーマにして深刻になりがちだが、本書は自足したユートピアが描かれる。今から見れば牧歌的だが、当時の現実的な側面だ」と話す。

 本書で活躍するのは「おじさん」だ。ジャック・タチの映画「ぼくの伯父さん」(1958年)をほうふつさせる、浮世離れして子供っぽい性格のおじさんたち。楽器を弾いて歌うのに夢中だったり、砂漠にこっそりザクロ園を作ろうとしたりする姿を温かく見つめる。「そういう人たちがやっていけるコミュニティーがいい。大人なんだけど物事を動かせない、そんな“権力のない権威”に僕はひかれるのです。サローヤンがやろうとしたのは『物事は何とかなるんだ』という喜劇です」と柴田さん。悪魔か賢者のどちらかとして描かれがちだったインディアンが大金持ちとして登場するのも、ステレオタイプからの解放を感じるという。

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 ところで柴田さんの翻訳作法はいかに。「読書の快楽が伝わるのなら、直訳か意訳かは関係ないという立場です。1の英語を日本語では0・9しか伝えられないとしても、小説は『冗長性』が高いメディアですから、全体のパワーは伝わる。翻訳家の努力は必要ですが、読者は楽観してくださっていい」。ちなみに本書は作家の北杜夫(1927−2011年)の「感傷的かつユーモラスそしてマイルドに自虐的」な作風をイメージしながら翻訳したという。

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 今後の刊行予定と柴田さんの<寸評>は以下の通り。【5月】フィリップ・ロス『素晴らしいアメリカ野球』(中野好夫常盤新平訳)<非常に痛快なパロディー>▽トマス・ハーディ『呪われた腕 ハーディ傑作選』(河野一郎訳)<現代では失われたアート的な短編>【7月】コリン・ウィルソン『宇宙ヴァンパイアー』(中村保男訳)<思想家による秀逸なB級エンタメ>▽マキシーン・ホン・キングストンアメリカの中国人』(藤本和子訳)<現実と幻想の絡みがしなやか>【9月】ジェイムズ・ディキー『わが心の川』(酒本雅之訳)<人と自然の対決が面白い>▽リング・ラードナー『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』(加島祥造訳)<よた話文学の頂点>。11月は村上さんと柴田さんの新訳が1冊ずつ出る予定。【鶴谷真】
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