覚え書:「憲法を考える:自民改憲草案・家族:上 個人より『家族』、消えた2文字」、『朝日新聞』2016年04月19日(火)付。

Resize1895

        • -

憲法を考える:自民改憲草案・家族:上 個人より「家族」、消えた2文字
2016年4月19日
 
 自民党憲法改正草案24条2

 《婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。》

 間違い探しではないけれど、現行憲法の条文と比べて、2文字、消えている。「両性の合意のみに基いて」の「のみ」だ。

 草案Q&A集をひもといても、その理由については触れられていない。いったいどう考えたらいいのだろうか。

 いまから55年前、神奈川県の主婦、渋谷正子さん(79)は24歳で結婚した。8歳の時に終戦を迎え、妹たちの面倒をみるため高校には行けなかった。事務をしていた母校で、同級生だった夫と再会。後に求婚された。

 だが、義母は大反対し、会ってもくれなかった。「息子の嫁は私が選ぶ」「中卒は許さない」。定時制高校に通い、卒業した。心が折れそうになっていた渋谷さんを後押ししたのは、夫の一言だ。

 「憲法24条を読んでごらん。僕たちの結婚は、憲法で保障されているんだ。両親は必ず説得するから心配しないで」

 旧憲法下では、結婚は家のためにするもので、家長や親の同意が必要だった。いわゆる「家制度」だ。新憲法はこれを否定し、「両性の合意のみに基づいて成立」と規定することで、親や親族ら第三者の意思によって妨げられることのない、婚姻の自由を保障した。

 ところが、自民党草案には「のみ」がない。渋谷さんは思う。「のみ」がなかったら、自信をもって結婚できなかったかもしれない、と。

 「のみ」が保障する婚姻の自由は、いつ、誰と結婚するかはもちろん、結婚しない自由、離婚する自由をも含む。13条の「すべて国民は、個人として尊重される」も踏まえれば、どう生きるかは、個人の決定にゆだねられているのだ。

 一方、草案はどうだろう。「個人」より「家族」を重視しているようにみえる。24条1項には、こんな条文を新設する。

 《家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。》

 Q&A集は「昨今、家族の絆が薄くなってきていると言われていることに鑑みて」と、新規定を置いた理由を説明する。「個人と家族を対比するものではない」「家族のありかたに関する一般論を訓示規定として定めた」とも言うが、先に引いた現行13条の「個人」が、草案では「人」になっていることに鑑みれば、素直に受け取るのは難しい。そもそも家族のあり方は多様化し、「一般論」でくくりきれるはずはないのだが――。

 安倍晋三首相は自著「新しい国へ」で、こう書いている。

 「『お父さんとお母さんと子どもがいて、おじいちゃんもおばあちゃんも含めてみんな家族だ』という家族観と、『そういう家族が仲良く暮らすのがいちばんの幸せだ』という価値観は、守り続けていくべきだ」

 今年度予算では、「3世代同居」住宅への支援が決まった。

 (杉原里美)

 <憲法24条>

 1 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

 2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
    −−「憲法を考える:自民改憲草案・家族:上 個人より『家族』、消えた2文字」、『朝日新聞』2016年04月19日(火)付。

        • -


http://www.asahi.com/articles/DA3S12316850.html


Resize1871


Resize1467