覚え書:「くらしナビ・学ぶ 部活顧問「教員に選択権を」 ネットで発信、賛同者2万人超」、『毎日新聞』2016年4月25日(月)付。

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くらしナビ・学ぶ
部活顧問「教員に選択権を」 ネットで発信、賛同者2万人超

毎日新聞2016年4月25日 東京朝刊

「部活問題対策プロジェクト」のホームページに掲載されているイラスト。活動に賛同する漫画家の眞蔵修平さんが描いた=眞蔵さん提供


 部活がブラック過ぎて倒れそう−−。学校の部活動で顧問を務める教員の一部から悲鳴が上がっている。若手教員らが昨年12月、部活の顧問を引き受けるかどうかの「選択権」を求めてインターネット上のウェブサイトで署名を集める運動を始めたところ、3カ月間で約2万3500人分が集まり、3月初めに文部科学省に届けられた。教員らはなぜこうした行動に出たのだろうか。

 ウェブサイトの名称は「部活問題対策プロジェクト」。30代の公立中学教員ら男女6人で作る。教員の労働時間が過度に長くなることや授業の準備がおろそかになることなどを、部活がもたらす「負の側面」と指摘。その対策に取り組むプロジェクトの第1弾として昨年12月、「教師に部活の顧問をする、しないの選択権をください」と題したキャンペーンを始めた。

 ●全員強制学校も

 「部活動」は国語や社会などの教科と異なり、教育課程に位置付けられていない。文部科学省が定める学習指導要領には「生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については、スポーツや文化及び科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養(かんよう)等に資するものである」「(部活は)学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること」と記されている。

 文科省の教員勤務実態調査によると、2006年の時点で部活動顧問を務めていない中学教員は13・7%。「全員顧問制」の学校もある。

 活動時間はほとんどが放課後や休日だ。文科省の担当者は「一般的に、土曜や日曜に部活動の指導を4時間程度した場合、日額3000円が支給される」と説明する。具体的な支給の要件や額は自治体が条例などで定めている。

 ●子育てと板挟み

 「『部活は子どものため』と言うけれど、必ずしもそうではないのではないか」。メンバーの一人の30代男性はこう訴える。男性は関東地方の公立中学でテニス部顧問を務める。希望して担当になったが、「指導」と称して生徒に暴言を吐く同僚との間で意見が合わずに「本当に子どものためになっているのだろうか」と疑問を持つようになった。

 かつては土日返上で指導に打ち込んでいたが、結婚し、子どもが生まれた数年前からは「部活と子育ての板挟みになった」という。午前5時半過ぎに起床、6時半に出勤。日中の授業や放課後の部活指導をこなした後の午後6時半ごろ教材研究などの授業の準備に取りかかるという。

 「教員なのに部活指導に疑問を持つ自分はおかしいのかもしれない」。こう思い悩んでいたころ、部活指導に疑問を抱く一人の教員が開設したウェブサイトを見つけ、「部活指導に不満や怒りを持っているのは自分だけではない」と勇気付けられたという。「部活はあって当然、指導は教員がするものという考えが大半で、周りの同僚に訴えるのは難しい。けれど匿名ならば声を上げられる。負の側面を世論に訴えることで、これからの人たちのために部活のあり方を問いたい」と話す。

 プロジェクトに加わる公立中の教員は、3年前から「真由子」の仮名で、全ての教員が部活の顧問を務めなければならない勤務校での「不条理」をつづったブログを続ける。「部活動は付加的なもので、ボランティア的側面を持つものであり、教員の多分な善意によるものだ」と訴える。

 新年度になると、担当教員が前年度の部活の顧問を一覧表にして配る。転出した教員の部分は空欄になっている。教員たちは第3希望まで記入して担当に提出するが、「部活動を担当しない」という欄はない。全ての空欄に斜線を引き「部活動顧問を担当しない」と記入する私には、管理職からの説得が待っている−−。ブログはそんな日常をつづる。「真由子」さんは連続勤務で体調を崩したのをきっかけに、昨年度から部活の顧問は務めていない。

 「真由子」さんのサイトは新聞などに取り上げられて話題となり、閲覧者は延べ110万人を超え、衆議院予算委員会でも取り上げられた。当初はブログのコメント欄に「自分が休みたいだけなのでは」「教師を辞めた方がいい」などの批判が多く寄せられた。今も賛否両論あるが、「先生の大変さが分かった」などの好意的な意見が増えてきたと感じている。

 ●文科相も理解

 プロジェクトのメンバーたちは、自らの学生時代の経験などからも「部活動の教育効果は十分にある」と実感しているという。だが、「そうした教育効果をもたらす場を、学校の部活動に限定しなくていいはず」と話す。プロジェクトは第2弾として、生徒に部活動に入部するかしないかの選択権を与えるよう求める運動を始めている。

 馳浩文科相は3月の定例記者会見で、提出された署名について問われると、「(学校などに)適切な放課後や休日、土曜日の活用を促すことは当然だが、教員の多忙化に一層拍車をかけている現実に向き合わなければいけないという点で、問題意識は共通する」と話し、理解を示した。

 日本の教員の勤務時間は世界で突出して長い。文科省の調査では1日の平均勤務時間は10時間36分、このうち休憩は14分だけだ。部活については、外部から指導者を招く動きが出始めていて、文科省補助金などで後押ししている。馳氏は「教職員をサポートする体制を今後とも検討する必要がある」と続けた。【高木香奈】
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