覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 広がるか 外国人家事労働=中央大教授・山田昌弘」、『毎日新聞』2016年04月27日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障論 広がるか 外国人家事労働=中央大教授・山田昌弘

毎日新聞2016年4月27日 東京朝刊

 賛否両論がある中、国家戦略特区を利用した、外国人家事労働者(家事支援人材)の試行的事業が一部自治体で始まった。

 ただ、中身は、欧米やアジアの新興国と大きな違いがある。他国での外国人家事労働者は、原則住み込みで家事全般を担うのに対し、日本の新しい制度の場合は、通いで洗濯や掃除などを行うサービスなのである。

 これでは、日本人による家事代行サービスに比べ、多少料金が安めという以外、外国人家事労働者のメリットはあまり感じられないのではないだろうか。

 私は、香港に1年滞在して、外国人家事労働者の実態を観察してきた。香港は、日本に比べ女性の活躍は著しい。女性労働力率は男性とほぼ同じ、女性管理職比率も約30%と欧米並みだ。

 その裏には、外国人家事労働者雇用があるのは周知の事実である。人口約700万人、約240万世帯の香港で、外国人家事労働者は約30万人。8世帯のうち1世帯は雇用しているという計算である。

 住み込みの家事労働者は掃除や洗濯、料理など家事サービスを代行しているのではない。家に一日中いる「主婦」の代わりなのだ。幼稚園や小学校の送り迎えはもちろん、犬の散歩、料理の買い物から献立など、休日を除いて家事全般を取り仕切る。

 男性だけでなく、女性も、仕事をしている間、子どもや夕食の献立、買い物などのことなど考えずに、仕事に専念できる。子どもが病気で家に帰される、突然残業を命じられたなど、いざとなったときの心配も無用だ。電話一つで用が足りる。これは、家事労働者が住み込みであるから可能なのである。つまり、夫婦で「専業主婦」を雇っているという感覚なのだ。これが第1のメリット。

 香港は1人あたりの国内総生産(GDP)は日本よりも高く、手取り収入は日本よりも多い上、外国人家事労働者の賃金は月5万円程度だ。共働き世帯の収入のほぼ1割以下で済んでいる。部屋を用意する必要はあるが、最近では2畳ほどのメイド部屋付きのアパートも多くなっている。

 これは、住み込み、つまり、住居と食事が提供されているから、この賃金でも働きに来てくれる。賃金の大部分を出身国のフィリピンやインドネシアなどに送金できるからである。これが住み込みの第2のメリットであり、香港で中流階級にも家事労働者雇用が広がった理由でもある。

 日本で、低賃金の外国人家事労働者の住み込み雇用ができるのは、外交官や一部の高年収外国人のみ。日本人の住み込み家事労働者を雇えるのは、ほんの一握りの高額所得者くらいで、一般の共働き夫婦が利用できる金額ではない。

 人権やプライバシーの確保など、クリアすべき問題は多いが、共働き夫婦の「選択肢の一つ」として、外国人住み込み家事労働者の導入を進めてもよいと思う。

 ただ、日本では、容認されても、文化習慣の違いから、現実に利用する人はごく少数にとどまると私は判断しているが。(次回5月4日は孫大輔さん)
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 広がるか 外国人家事労働=中央大教授・山田昌弘」、『毎日新聞』2016年04月27日(水)付。

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