覚え書:「18 私たちも投票します:選挙運動に細かいルール AKBと考える」、『朝日新聞』2016年05月08日(日)付。

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18 私たちも投票します:選挙運動に細かいルール AKBと考える
2016年5月8日

 ◆第3部・投票するために選挙の仕組みを知る

 第3回・選挙運動ってなんだろう

 18歳から関わることができる選挙運動や政治活動のルールを読み解く

     ◇

 6月から選挙権を得るAKB48の3人と、憲法学者の木村草太(そうた)さんが選挙の仕組みを考える連載「私たちも投票します」(第3部)の3回目は、18歳から参加できるようになる選挙運動のルールがテーマです。細かい規定がなぜ必要なのか、政治とお金の関係についても語り合います。

 ■注意しつつ、遠慮せず参加を

 木村草太 選挙のルールを定めた公職選挙法が改正され、18歳になると投票だけでなく、選挙運動にも参加できるようになりました。この法律を読んでみてどうですか。

 加藤玲奈(れな) こんなに細かくルールが決められているなんて、初めて知りました。

 木村 選挙運動というのは、この人に一票を入れてくださいとか、投票ができる有権者に働きかけをすることです。選挙運動ができるのは、候補者が立候補を届け出た日から投票前日までと決まっています。この選挙期間以外の時に運動をすると、法律違反になります。

 加藤 やってはいけないことが、たくさんあるんですね。

 木村 禁止されていることが多いとはいえ、加藤さんたちと同じ世代の人たちが選挙運動をすることを遠慮したり、ためらったりする必要はありません。ルールを意識して運動に関わってもらえばいい。では、なぜこんな厳しいルールがあると思いますか。

 茂木忍(もぎしのぶ) 制限しないと、お金持っている人ばかりが好きなだけ選挙運動をできるようになるからですか。

 木村 そうです。お金がない人に不利にならないようにするのが、理由の一つです。例えば、それぞれの有権者の家に戸別訪問して「茂木さんをお願いします」と言うのも禁止されています。戸別に訪ねると、お金で投票を頼む買収を招く恐れがある。これに違反すると、刑罰や罰金を科せられることになります。

 向井地美音(むかいちみおん) 家を訪ねてお願いするのも禁止なんですね。法律を知らずにやって、違反したりしないように気をつけないといけないんですね。

 茂木 AKB48の総選挙でも「一票をいれて」と言ってはいけない、というルールがあります。実際の選挙でも同じようなことはありますか?

 木村 今年夏に参議院選挙がありますが、参院選の運動期間は17日間。まだ立候補の届け出は始まっていないので、今から「立候補する茂木さんに投票してください」といった働きかけをしてはいけません。

 向井地 候補者の名前を出さずに「投票に行きましょう」とだけ言うのはいいんですか?

 木村 特定の候補者の当選を目的としない場合は、選挙運動にはなりません。だから「今度の選挙、ぜひ投票に行きましょう」と呼びかけるのは、選挙運動にはあたらないので大丈夫です。

 加藤 候補者名を出すか出さないかで、ずいぶん違うんですね。

 木村 ほかにも、学校の先生が教育上の地位を利用して「この党に投票するのは間違っています」などと言うような選挙運動も禁じられています。学校は政治の場ではないので、政治的な中立性を確保しなければいけないからです。

 茂木 日本ではたくさん決まりがありますが、ほかの国はどうでしょうか。

 木村 こんなに細かい規定はない国も多いですね。選挙運動は自由にできるものだ、という考え方があるからです。選挙にお金がかかることが問題なら、選挙運動にかける総額だけを規制するというやり方もあると思います。

 茂木 これをやってはいけないとか細かいことを言わず、選挙費用の総額だけを決めるということですか。

 木村 例えば、選挙運動で使っていいのは1千万円までと上限を決める。そのお金で、候補者を紹介するビラを刷ってもいいし、インターネットのホームページを作ってもいいし、アルバイトを雇って演説会を開いてもいい、というように。総額だけ決めて、あとは候補者や支援する人の創意工夫に任せる仕組みがあってもいい。

 茂木 日本でももう少し自由な選挙運動ができるようになればいいですね。

 木村 最近、ネット上での選挙運動が解禁されました。ホームページやツイッターなどで「この候補者はいいよね」と支援する運動もできるようになりました。ルールは少しずつ変わってきていますが、選挙運動にはやってはいけないことがいろいろあることに注意して、政治に参加していってほしいです。

 ■なぜ派閥できる? リーダー押し上げ役職・お金期待

 木村 自民党民進党の中には、同じ党の中に派閥やグループがあります。それぞれの国会議員がグループのリーダーを党のトップにし、さらに首相の座をめざそうと激しく争う時があります。

 茂木 なぜ派閥に分かれて争うんでしょうか。

 木村 AKB48にもいろいろ人間関係があるかもしれませんが、それとは違う感じがしますね。そもそも国会議員になる人の目標はなんだと思いますか。

 茂木 日本を変えたいからだと思います。

 木村 そうですね。しかし、議員1人だとどのぐらいのことができるか。今の衆院議員は475人。国会議員1人では日本を変えられません。自分に配慮してくれるリーダーが首相になれば、大臣や党の役職に就くチャンスが広がります。

 向井地 リーダーが偉くなった時に、自分も力を持てるから派閥にいるようにも見えますね。

 加藤 AKB48だと、発言が正しいとか、みんなのことを考えられる人が自然とリーダー的な存在になっていきます。

 木村 派閥には別の面もあります。自民党ではかつて、派閥のリーダーが政治資金を集めてメンバーにお金を頻繁に配った。国会議員は選挙運動や政治活動にすごくお金がかかるので、助かるわけです。派閥に入ってリーダーを持ち上げれば、自分に役職やお金が回ってくる面がありました。

 加藤 それだと結局は、自分のことしか考えていない感じがします。

 木村 こうした資金集めが法律違反になるほど度を越して、政治家が逮捕されるようなわいろ事件も起きました。事件の反省から政治資金に関する法律がより厳しくなり、派閥は以前より力を失ったとも言われています。ただ、こうした派閥政治のあり方は、国会議員が国民全体のために政策などをどう実現していくかを考えるうえで、一つの材料になると思います。

 向井地 国会議員それぞれの意見は違うかもしれないけれど、国のためになる方向で政治を進めていってほしいです。

 =敬称略

 (構成・貞国聖子)

 ■買収・戸別訪問禁止、ネット選挙は解禁

 選挙のルールを定めた公職選挙法は1950年に制定された。

 選挙運動は、最高裁判例などで「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為」と定義され、買収や戸別訪問を禁止している。

 選挙運動は、選挙が始まる公示日ないし告示日に候補者が立候補を届け出た時から、投票前日までの選挙期間中のみ可能。期間外にすると同法違反になる。

 公選法は2013年4月に改正され、選挙期間中にホームページやSNS、動画中継サイトなどでも運動する「ネット選挙」ができるようになった。ただ、投票を依頼する電子メールの送信は政党や候補者に限って認められ、有権者は禁じられている。また、他人へのなりすましや中傷を防ぐため、SNSなどに投稿する際は連絡先を表示しなければならない。

 さらに15年6月の同法改正で、投票や選挙運動をできる年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられた。今年6月19日から施行され、新たに18歳、19歳の約240万人が投票できることになる。

 一方で、例えば投票日当日に18歳になる人は、前日までは18歳未満なので、選挙運動に関わることはできない。同法に違反すると、禁錮または罰金が科せられる。

 ◇次回から第4部

 選挙の仕組みをテーマにした第3部は、今回が最終回です。5月下旬に開始予定の第4部では、ジャーナリストの津田大介さんとAKB48の3人が、投票先の選び方について考えます。
    −−「18 私たちも投票します:選挙運動に細かいルール AKBと考える」、『朝日新聞』2016年05月08日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12345647.html


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