覚え書:「ひと:戸塚辰永さん=ドイツでエッセーを出版した全盲の編集者」、『毎日新聞』2016年05月13日(金)付。
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ひと
戸塚辰永さん=ドイツでエッセーを出版した全盲の編集者
毎日新聞2016年5月13日 東京朝刊
戸塚辰永(とつか・たつなが)さん(51)
「ちょっといいか」。ドイツ・ブレーメンの語学学校に留学早々、日本人の留学仲間に呼び出された。「俺たちも精いっぱいなんだ。今後手を貸さない」「障害者だからって甘えるんじゃない」。当初は過剰なほど世話を焼く人々だった。
「日本でこんなことはありません。彼らもストレスがひどく、弱者の僕が邪魔になったんです」。日本人から離れ、一人ドイツに分け入った留学記を月刊誌「点字ジャーナル」に連載したが、留学仲間を実名で書いたのもたたり、日本での出版は頓挫した。諦めていたら旧知の言語学者が翻訳し、ドイツのモカンボ社から今春出版してくれた。
1995年秋までのべ2年間留学。口うるさい芸術肌の同居人がいつのまにか親友になり、「死の間際までそばにいてくれ」と懇願されたり、金持ち夫人に泣きながら身の上話をされたり、現地の人々と濃密に関わった。執筆に時間がかかったのは、ドイツの親友2人の病死をきっかけにうつを発症したためだ。「思い出すと苦しくて自分の体験を言葉にできなかった」
それでも、苦難をさらりと語るところに、そこはかとないユーモアが漂い、現地での朗読会では何度も爆笑となった。
生まれつき左目が見えず、右目は9歳の時、近所の子に石を投げられ失明した。すぐに盲学校に寄宿してからずっと1人暮らし。読む者が彼になったような気にさせる静かで温かな文体は、内向が生みだしたものかもしれない。<文・藤原章生/写真・中村藍>
■人物略歴
静岡県生まれ。明治大卒。点字ジャーナル編集者。ナチスの障害者政策を研究。本の独語題は「辰永のドイツ探究」。
−−「ひと:戸塚辰永さん=ドイツでエッセーを出版した全盲の編集者」、『毎日新聞』2016年05月13日(金)付。
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