覚え書:「書評:半席 青山文平 著」、『東京新聞』2016年06月19日(日)付。


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半席 青山文平 著

2016年6月19日

武家の窮迫 見つめる
[評者]木村行伸=文芸評論家
 太平の世を彷徨(さまよ)う、武家の男女の奥深い絆を捉えた短篇集『つまをめとらば』で今年、直木賞を受賞した青山文平。本書は氏の受賞第一作にあたる。
 主人公は江戸幕府で徒目付(かちめつけ)を務める二十六歳の御家人・片岡直人。彼の父はかつて一度だけ旗本に昇進し、将軍に御目見(おめみえ)を許されたことがあった。よって、現在片岡家は一代御目見の「半席(はんせき)」の立場にある。もし直人が上級職に就ければ「永々御目見以上(えいえいおめみえいじょう)」の家筋となり、子の代も旗本と認められるようになるのだ。
 無役の辛(つら)さが忘れられない直人は、子孫のためにも一日も早い勘定所への身上がりを望んでいた。そんな彼に、上司の内藤雅之は次々と、出世に結びつかない不可解な事件の真相究明を依頼する。
 物語は、直人の切迫した状況と高齢の武士の不審死の謎を追う表題作「半席」(作品集『約定(やくじょう)』収録作を改稿)をはじめ六つの短篇連作で紡がれている。戦のない文化年間(一八〇四〜一八年)を舞台に、武家の貧富の格差や転換期の封建制の歪(ゆが)みによる悲劇等を、広範な江戸知識と推理小説的作風で言及している。時代の変化に心身が窮迫し、罪を犯す侍たち。彼らの苦しい胸中を、度量と寛容性で汲(く)み取る直人。この懲罰と救済の併存こそが本書の見所であり、あるいはそこに現代の無闇に攻撃的な風潮への否定的主張(アンチテーゼ)が込められているのかも知れない。
 (新潮社・1728円)
 <あおやま・ぶんぺい> 1948年生まれ。作家。著書『かけおちる』など。
◆もう1冊
 青山文平著『白樫(しらかし)の樹の下で』(文春文庫)。天明期の江戸を舞台に、無役の貧乏御家人を主人公にした時代小説。
    −−「書評:半席 青山文平 著」、『東京新聞』2016年06月19日(日)付。

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