覚え書:「科学の扉:次世代太陽電池 発電量・コスト巡り競争激化」、『朝日新聞』2016年05月15日(日)付。

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科学の扉:次世代太陽電池 発電量・コスト巡り競争激化
2016年5月15日

次世代太陽電池<グラフィック・山本美雪>
 普及が進んだシリコン太陽電池は、発明からすでに60年たつ技術だ。いま、これとは全く異なる材料や構造を使った次世代の太陽電池の開発が進んでいる。さらに発電量を増やしたり、発電コストを安くしたりするのが狙いだ。

 革新的な環境技術の開発で地球温暖化対策を目指すとして、政府が先月まとめた「エネルギー・環境イノベーション戦略」。その中で、将来の実用化が期待される2種類の次世代太陽電池が挙げられた。

 一つは「ペロブスカイト太陽電池」。桐蔭横浜大の宮坂力教授らが2009年に発表した。米科学誌サイエンスが13年に10大科学成果に選ぶなど、太陽電池の世界でいま最も熱いテーマだ。

 名前の由来は、材料に使う特殊な結晶構造(ペロブスカイト構造)だ。太陽光のエネルギーを電気に変える変換効率は、最初3・8%だったが、今年3月には韓国チームが22・1%を報告した。研究段階の数字とはいえ、シリコン太陽電池に近い値だ。

 主なシリコン太陽電池は、シリコン(ケイ素)の結晶を薄く切って作るが、あまり薄いと割れてしまう。0・1〜0・2ミリ程度の厚さが必要だ。

 一方、ペロブスカイト太陽電池は、薄さがその100分の1ほどのヨウ素や鉛などの結晶構造でできた膜で発電する。そのため、太陽電池をさらに軽くできる。宮坂さんは「軽いので、人工衛星や探査機の電源として宇宙に打ちあげるのにも有利だ」と話す。

 曲げたり半透明にしたりできるのも特徴だ。窓や壁に貼るなど、シリコン太陽電池とはすみ分けを目指せる。また、この太陽電池は基板の上に材料を塗るだけで作れ、低コスト化も期待される。

 ■極小で無駄なし

 次世代太陽電池の二つ目は「量子ドット太陽電池」。東京大の岡田至崇(よしたか)教授によると、半導体を10億分の1メートルレベルの極めて小さな構造にした「量子ドット」を材料に使う。

 これによって、従来のシリコン太陽電池では生かしきれていなかった太陽光のエネルギーを電気に変え、2倍以上も効率が高くなると期待されるという。

 どういうことか。太陽光には目に見える可視光のほか、赤外線や紫外線など様々なエネルギーを持った光が含まれる。だが、材料の性質上、シリコン太陽電池が電気に変えられるのは可視光など一部にとどまる。ほかは熱になったり通り抜けたりして無駄になる。

 そこで登場するのが量子ドット。電子を光の波長と同じぐらい狭い領域に閉じ込め、極めて小さな世界になるとあらわれる特殊な「量子効果」を利用する。これによって、これまで発電に使えなかった光を吸収できるようになる。光は「波」と「粒子」としての性質をあわせ持つと考える量子力学にもとづく効果だ。

 岡田さんたちの研究チームは量子ドットと、従来の光を吸収する化合物型の2種を重ねた太陽電池を作り、05年に当時世界最高の変換効率7・7%を発表。現在は29・6%まで高め、英仏のチームと共同研究している。

 小さな面積で高効率発電が見込めるほか、電気自動車の電源などへの応用も期待される。ただ、「年に1千本ほど論文が出て、競争が激しくなっている」と岡田さんは語る。

 ■従来型の改良も

 ただ、ペロブスカイト太陽電池は現状では耐久性が乏しい。有害な鉛を含み環境リスクも抱える。量子ドット太陽電池は材料に希少なインジウムを含むうえ、微小構造を低コストで作るのが難しい。

 東京都市大の小長井誠教授らは現在の太陽電池の材料と同じく、無害で豊富なシリコンに着目した。シリコン結晶で作るナノメートル級の極薄の壁を並べる「ナノウォール型太陽電池」にとりくむ。量子ドット太陽電池と仕組みが似ており、極薄の壁の中に電子を閉じ込めることで量子効果が生じ、効率よい発電に生かせるという。

 一方、現在市場の大半を占めるシリコン太陽電池の改良に取り組むのは、大阪大の小林光教授だ。酸やアルカリ性の液体に表面を浸すだけで、光を反射せず吸収できる加工技術を開発。反射防止膜が不要になり、低コスト化につながると期待する。

 政府の太陽光発電コストの目標は、火力など基幹電源並み(1キロワット時あたり7円)以下だ。現在は約4倍程度。小林さんは「発電効率だけでなくコストの視点が重要だ」という。(小堀龍之)

 ◇「科学の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「動く遺伝子」の予定です。ご意見、ご要望はkagaku@asahi.comメールするへ。
    −−「科学の扉:次世代太陽電池 発電量・コスト巡り競争激化」、『朝日新聞』2016年05月15日(日)付。

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