覚え書:「未確認動物UMAを科学する [著]D・ロクストン、D・R・プロセロ [評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)」、『朝日新聞』2016年07月24日(日)付。
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未確認動物UMAを科学する [著]D・ロクストン、D・R・プロセロ
[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論) [掲載]2016年07月24日 [ジャンル]人文
■“それ”を見させるものは何か?
雪男。ネッシー。一度でいいから見てみたい。考えただけでワクワクしてくる。だが残念なことに、どちらもこの世には存在しない。目撃談はたくさんあるが、信頼できる証拠は皆無だ。
本書は、未確認動物(UMA)に関心の深い二人の著者による、詳細な検討の成果である。対象となるのは雪男(イエティ)とネッシーの他に、北アメリカの巨人ビッグフット(サスクワッチ)、大海原の巨大海蛇(シーサーペント)、そしてアフリカはコンゴの恐竜モケーレ・ムベンベ−−もう、名前を聞いただけで興奮してきませんか? 未確認動物の代表的なスターを過不足なく取り上げている。妥当な選択だ。
この本のすごいところは三つある。ひとつは、対象とする未確認動物について、関連する文献や資料を網羅していること。すでに未確認動物に詳しい人にとっても入門者にとっても、有益な情報だ。注と索引がきちんと翻訳されているのもうれしい。
二つ目は、未確認動物がいるという主張のどこがインチキなのかを丁寧に解明してくれるところ。今までの目撃情報はどうして信憑(しんぴょう)性が薄いのか、未確認動物がいるという主張がなぜ成立しないのか、公平かつ詳しく説明されている。
本書の特徴の三つ目は、UMAの社会的・文化的背景への緻密(ちみつ)な目配りである。なぜ人は、そこに「それ」を見いだしてしまうのか? 意図的な捏造(ねつぞう)はおくとして、クマやアシカなどの動物を怪物と見間違えたり、《キング・コング》などの映画の影響を無意識に受けていたりといった原因が考察されている。映画封切りの直後に目撃情報が急増したりするらしい。
UMAについて考えることは、信頼できる科学情報とは何かを考えることでもある。そして、間違った情報を信頼する(同時に、正しい情報を信用しない)こちら側の姿勢についても、いろいろなことを語りかけてくる。
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Daniel Loxton 「Junior Skeptic」誌の編集者。Donald R. Prothero 古生物学者、文筆家。
−−「未確認動物UMAを科学する [著]D・ロクストン、D・R・プロセロ [評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)」、『朝日新聞』2016年07月24日(日)付。
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