覚え書:「書評:ロダン 天才のかたち ルース・バトラー 著」、『東京新聞』2016年07月31日(日)付。

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ロダン 天才のかたち ルース・バトラー 著

2016年7月31日
 
◆恋多い彫刻家の実像
[評者]小倉孝誠=慶応大教授
 ロダンは近代彫刻の代名詞である。本書は同時代の文献だけでなく、未公刊の手紙や資料も参照しながら、この不世出の巨人の生涯を跡づけた評伝の決定版。
 青年時代は孤独な修行にいそしんだ。四十代になってから《カレーの市民》などを受注して、生活が安定したが、それは十九世紀末のフランスが共和政の理念を広めるため、町の広場や公的機関の中庭に彫像を設置したからだ。政治情勢が彫刻家の経済的安定をもたらした。
 ロダンと文学のつながりは深い。代表作《地獄の門》は、ダンテの『神曲』に想を得た。他方《バルザック》像は物議をかもした。これは文芸家協会(時の会長がゾラ)から正式に注文されたものだが、制作は大幅に遅れ、出来上がった作品は大作家にふさわしくないとして拒否された、という因縁がある。
 ロダンは弟子のカミーユ・クローデルやファンなど、数多い女性との関係で有名だった。最晩年に至るまで、官能的な体験をもち続けた。ロダンは女性を愛し、女性に愛されることで創作のエネルギーを得ていたのかもしれない。
 手堅い資料調査によって、ロダンにまつわるいくつかの誤解を払拭(ふっしょく)し、天才彫刻家の栄光と孤独を鮮やかに浮き彫りにする。十九世紀から二十世紀初頭の文化状況も明らかにして、読み応え十分だ。
 (馬渕明子監修、大屋美那ほか訳、白水社・8424円)
 <Ruth Butler> 1931年生まれ。アメリカのマサチューセッツ大名誉教授。
◆もう1冊
 R・M・リルケ著『オーギュスト・ロダン』(塚越敏訳・未知谷)。彫刻の巨匠についてつづった詩人の論考・書簡など。
    −−「書評:ロダン 天才のかたち ルース・バトラー 著」、『東京新聞』2016年07月31日(日)付。

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