覚え書:「Reライフ:日常の『なぜ』素通りしない 外山滋比古さんに聞きました」、『朝日新聞』2016年05月30日(火)付。
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Reライフ:日常の「なぜ」素通りしない 外山滋比古さんに聞きました
2016年5月30日
「特に人生後半、いいメンバーとのおしゃべりは宝です」と語る外山滋比古さん=岩下毅撮影
■Reライフ 人生充実
《歯切れの良い外山滋比古(しげひこ)さんのエッセーが大好き。幅広いテーマについて書く切り口は、どうやって思いつくのでしょうか。 佐賀市・福島幸子さん(64)》
■英文学者・外山滋比古さん(92)
英文学者、そしてエッセイスト。代表作の「思考の整理学」(ちくま文庫)は200万部を超えた。滑空する姿は美しくても自力で飛び続けられない「グライダー人間」と、自力で飛べる「飛行機人間」の例えを用いて、自分の頭で考えることの大切さを説く。
「Reライフ」に質問を寄せてくれた福島さんは、読書ノートに気に入った外山さんのフレーズを書き留めている。その一つが「絵をかく人は文章がうまい」。なぜ、こんなことに気づけるのでしょう――その質問を、そのまま外山さんにぶつけた。
■悩んで気づく
「ああ、これはねえ、文章をうまく書けなくて悩んでいたときに気づいたんです」と外山さん。
え、そんな悩みが?
「今も悩んでますよ」と外山さんは笑った後、こんな体験を語った。
1日10時間以上英語に浸る年月を経た後、日本語でものを書く必要性に迫られた。半世紀以上前のことだ。ところが、書けない。「英語に偏りすぎていた」。日本語に意識が向き、どうしたら文章をうまく書けるのだろう、との思いも芽生えた。
あるとき、新聞で何げなく目を通した漫画家のコラム。清水崑や横山泰三、那須良輔ら、「どの人も文章に切れ味があって、うまかった」。なぜうまいのか。「漫画は大切なところだけを描いて、あとは省略してしまう。文章を書くのに通じます。文章のことを考えていたから、気づいたんでしょうね」。こうして「絵をかく人は……」が生まれた。
■他人と雑談を
外山さんは、「なぜ」「どうしたら」の塊だ。なぜ最近はイタリア料理が人気なんだろう、雷はどうしたら電気として使えるのだろう、なぜ大学の文系廃止論が出てきてしまうのだろう……。
ちょっと立ち止まってみれば、不思議なことはたくさんある。それを素通りしない。その中にあるおもしろさをとらえるには「生活が大事なんです」。
「生活」とは?
「一番は、他人と触れあう時間。自分と違うことを知っている人たちとのおしゃべりには、本にはない『動いているおもしろさ』があります」
初めて聞く内容自体のおもしろさに加え、何げない一言に触発されて、新しい考えが浮かんだり、いくつかの考えが結びついたり。寝かせていた考えが何倍もおもしろくなってよみがえってくることもある。おしゃべりの効用だ。
■カメの生き方
さらに、他人との触れあいには、「おもしろさ」にとどまらない重みがあるという。「いろんな人と接すれば、当然うまくいかないこともある。すると、『どうしてこうなってしまったんだろう』と真剣に考える。『生活』があれば、真剣に考えるのです」
コンピューターが囲碁や将棋で人間を負かす時代になった。「だからこそ、人間にしかできない考え方をすることが、ますます大事」と、外山さんは強調する。「ウサギとカメで我々がカメだとしたら、原っぱで駆けっこしても勝てるわけがない。ならば、例えば『あの川に浮かんでいる島までの競争』に持ち込むのがカメの生き方」。好奇心と独自性へのこだわりが、幅広い着想を支えている。
■ごちゃごちゃを楽しめる柔軟さ
明快な語り口は、エッセーそのまま。声はよく通る。学者と聞けば「知識の塊」のような印象を持ちがちだが、外山さんは物知りになるより、混沌(こんとん)、相違、失敗、悩みの中で生きることこそが、おもしろいという。ごちゃごちゃした状態をおもしろがり、そこから新しい考えを生み出せるのは、柔軟さと活力ゆえだろう。「勤めていた頃に比べて、今は考える時間がある」。とにかく楽しそうなのだ。年齢を重ねるって悪くない、そう感じた。
(友野賀世)
◇「Reライフ」は毎週月曜日に掲載します。次回は「日本銀行と東京証券取引所を訪ねる」の予定です。採り上げてほしいテーマをseikatsu@asahi.comメールするへお寄せください。
−−「Reライフ:日常の『なぜ』素通りしない 外山滋比古さんに聞きました」、『朝日新聞』2016年05月30日(火)付。
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