覚え書:「書評:人びとの戦後経済秘史 東京新聞・中日新聞経済部 編」、『東京新聞』2016年09月04日(日)付。
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人びとの戦後経済秘史 東京新聞・中日新聞経済部 編
2016年9月4日
◆今どう生きるか問う
[評者]池上彰=ジャーナリスト
多くの若者は、歴史を暗記科目だと誤解しています。複数の大学で現代史を教えている私の実感です。年号が頻出し、固有名詞が多数出てくるのですから、そう考えるのもやむをえません。
その若者たちにとって、水俣病や四日市の大気汚染など高度経済成長期に発生した日本の公害問題は、約五十年前の出来事。完全に歴史上の出来事です。
しかし、もしあなたが、そのとき、チッソ水俣工場で働いていたら…四日市の工場で働いていたら…。
あなたは何ができたでしょうか。周辺住民の健康と生活を守るために、工場の内実を告発できたでしょうか。それとも自分の生活を守るために沈黙を守ったでしょうか。こう考えると、公害問題は歴史ではなく、まさに現代の問題であり、私たちの生き方の問題なのです。
本書には、当時、大量の硫黄酸化物を排出していた企業で、会社を守ろうとした立場の人、告発に踏み切った人の双方の証言が出てきます。当時を知る人が次第に消えていこうとする現代、「いま取材しなければ、永遠に間に合わない」という焦りが取材班を突き動かしました。
人々の証言を聞いた取材班は、こう述懐します。<戦争も公害も組織内部では多くの人が「おかしい」と思いながら破局に向け突き進んでしまった。福島の原発事故も同じ構図だ>
(岩波書店・2052円)
戦中から現代までの経済史秘話を発掘した本紙連載「甦る経済秘史」を再構成。
◆もう1冊
半藤一利著『昭和史 戦後篇』(平凡社)。社会風俗や雑誌編集者としての個人史も交えた、語り形式の戦後史。
−−「書評:人びとの戦後経済秘史 東京新聞・中日新聞経済部 編」、『東京新聞』2016年09月04日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016090402000172.html