覚え書:「原発CM、再開に波紋 「訓練に全力」安全対策PR」、『朝日新聞』2016年06月17日(金)付。

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原発CM、再開に波紋 「訓練に全力」安全対策PR
赤田康和2016年6月17日

柏崎刈羽原発のCM(東京電力提供)

 東京電力福島第一原発事故から5年余り。東電柏崎刈羽新潟県)と中部電力浜岡(静岡県)の両原子力発電所の地元で、原発のテレビCMが復活している。訓練など安全対策への取り組みをアピールしているが、原発の安全性への疑問が消えず、福島で事故処理も終わっていない状況下、住民や識者から批判が出ている。

 「様々な状況での訓練を繰り返すことで一人ひとりの判断力や行動力を高めています」。そんなナレーションが勇壮な音楽と共に流れ、社員が「どんな状況でも対応できるよう訓練に全力を注ぎます」と宣言する。東電が昨年6月から新潟の民放4局で放映している計6種のCMの一つだ。東電によると、放映回数は4局合わせて月に約320本になるという。

 柏崎刈羽原発では全7基が停止中だが、一部で再稼働への準備が進む。

 新潟県には福島県から約3千人が避難している。避難者を含む県民らは4月、東電・東京本社を訪ねて約1900人分の署名と共に、原発CMの中止や経費の公開などを求める抗議文を出した。呼びかけ人の一人、中山均・新潟市議は「柏崎刈羽でも安全対策の不備が発覚している。CMは現場が頑張っているというイメージだけを伝えるもので、印象操作だ」と話す。再稼働に慎重な姿勢の泉田裕彦知事も「再稼働のキャンペーンだとすると罪深い」(定例会見)と批判した。

■「まず避難者支援を」

 5年前、当時3歳と1歳の子ども2人と避難した母親(41)は「事故処理は終わらず、先が見通せず苦しむ避難者がいる。CMに使うお金があったら、避難している人たちを支援するべきだ」と憤る。

 中部電は福島第一原発の事故を受け、原発CMを一時中止したが、2012年から静岡の民放4局でCMを復活。当初は、安全対策を説明する内容だったが、昨年7月以降、女性ボーカルの美声を背景に原発で働く社員が登場するシリーズ(計8種類)を放映。「夜間訓練編」は「たとえ真夜中でも、この場所を守るために」「今日も、訓練に向き合う」との字幕が付く。

 福島第一原発の事故を受け、当時の菅直人民主党政権の要請で全炉が止まった浜岡原発。再稼働の準備が進められているが、12年に、市民団体が約16万5千人の署名とともに再稼働の是非を問う住民投票条例の制定を直接請求するなど住民の不安は根強い。浜岡原発のある御前崎市に隣接する牧之原市の西原茂樹市長は取材に「原発CMは一方通行のイメージ作戦。中部電は原発への不安や疑問を抱く国民と対話や議論を重ねて、自ら学ぶ姿勢が必要だ」と指摘する。

 CM戦略は有効なのか。

 東電の広報担当は「新潟県内に原発への不安や不満の声があるのは事実。それを払拭(ふっしょく)するため、同時に多数の人にメッセージを届けられるCMは必要」と強調。中部電浜岡原発の広報担当は「批判的な方も含めてお客様に安全性向上の取り組みをお伝えしたい。見る人によって受け止め方は異なるが、こういう人間が働いているんだと親近感を持っていただければ」と話す。CMに投じた費用について、両社はいずれも明らかにしていない。

■「CM出稿でメディアへ影響力」

 元博報堂社員で、『原発プロパガンダ』(岩波新書)を出版した本間龍さんは「福島の事故で原発の安全への信頼を得られていない以上、消費者との対話は成立しておらず、一方的に自分たちの主張を押しつけるもの。現場の仕事ぶりを伝えて、共感や同情を得るのが狙いだろうが、失敗している」と批判。一方、「地方の民放にとって電力会社は貴重なスポンサー。CM出稿を通じてメディアへの影響力を行使する狙いもあるのでは」と話す。

 「原子力規制委員会の審査を受けつつ、地元を懐柔し、再稼働の流れを作るのが狙いだろう」。『原発報道とメディア』(講談社現代新書)の著書があるジャーナリスト武田徹さんは、そうみた上で、「原発再稼働の是非は、地元だけでなく国全体の課題と考えるべきだ」と指摘する。

 原発の地元の自治体では再稼働を容認する首長もいる。武田さんは「人口が流出した地方は交付金など原発経済に依存せざるをえない現実がある。そうした事情につけ込み、なし崩し的に原発を再稼働させるのでなく、立ち止まって原発と地域の関係を考える必要がある」。(赤田康和)
    −−「原発CM、再開に波紋 「訓練に全力」安全対策PR」、『朝日新聞』2016年06月17日(金)付。

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http://www.asahi.com/articles/ASJ5L64VDJ5LUCVL01F.html






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