覚え書:「晩秋の陰画 [著]山本一力 ずんずん! [著]山本一力 [評者]末國善己」、『朝日新聞』2016年09月04日(日)付。

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晩秋の陰画 [著]山本一力 ずんずん! [著]山本一力
[評者]末國善己  [掲載]2016年09月04日   [ジャンル]文芸 
 
■成果を誇らず地道に働く美徳

 近年、乙川優三郎伊東潤ら、歴史時代小説作家の現代小説への進出が相次いでいる。人情時代小説で人気の著者も、立て続けに2冊の現代小説を刊行した。
 『晩秋の陰画』は、4作を収録した短編集である。
 デザイナーの高倉俊介の叔父で仕事の師でもあった尚平が死んだ。俊介が叔父の日記帳を手がかりに、尚平が親友の恋人を奪ったのが事実なのかを調べる表題作は、ラストのどんでん返しが、型破りに生き名声も得た尚平が果たして幸福だったのかを問い掛けていくだけに、深い余韻がある。
 香港で、飛行機恐怖症の鍼(はり)治療を受けた男に思わぬ副作用が出る「秒読み」はダークな物語だが、俳優のリノ・バンチュラにちなみ伴忠と命名された主人公が成長する「冒険者たち」は、青春小説色も強い。
 オーディオ評論家が、アメリカで高額な耳の治療を受け続ける「内なる響き」は、真に必要な医療とは何か、仕事と私生活のバランスとは何かといったアクチュアルな問題に迫っており、これは現代小説でしか描けないテーマといえる。
 東京の日本橋浜町の牛乳販売店を舞台にした『ずんずん!』は、著者が得意とする人情ものである。
 纏(まとい)ミルクは、牛乳配達を通して人の役に立つとの教えを守ってきた。ある日、販売員の一人が、顧客の異変に気付き命を救った。その話が、いつも纏ミルクで牛乳を飲んで出社する実川玉枝の耳に入る。玉枝の会社は、日本文化を全米に発信する広告のコンペに参加することになっていた。玉枝らは、牛乳と新聞の宅配こそが日本の心を象徴していると考えプランを作る。
 地域の人たちをつなぐ牛乳と新聞の宅配のように、玉枝たちがあくどいライバル会社に対し、人と人との縁を武器に立ち向かう展開は、痛快に思えるはずだ。
 著者は、成果を誇らず地道に働くことこそが、日本人の美徳としている。ここには、最近の日本賛美ブームへの批判も感じられた。
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 やまもと・いちりき 48年生まれ。『蒼龍』『大川わたり』『あかね空』(直木賞)など著書多数。
    −−「晩秋の陰画 [著]山本一力 ずんずん! [著]山本一力 [評者]末國善己」、『朝日新聞』2016年09月04日(日)付。

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