覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか 年齢を受け入れ、勇気を持つために 斎藤環さん [文]斎藤環」、『朝日新聞』2016年10月23日(日)付。

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悩んで読むか、読んで悩むか
年齢を受け入れ、勇気を持つために 斎藤環さん
[文]斎藤環  [掲載]2016年10月23日

61年生まれ。精神科医で批評家。筑波大学教授。『オープンダイアローグとは何か』(著・訳)など。
 
■相談 退職後「老いしかない」と気がめいる

 57歳で早期退職した元中学校教員です。在職中は退職後のことだけを楽しみに生きていました。家のローンも終わり、子どもも就職したので思い切って仕事を辞め、好きなことだけをして生きていく、と意気揚々だったのですが、ふと気が付くと、私にはこれから老いしかないと思って気がめいっています。こんな私を再び元気にしてくれる本を紹介してください。
兵庫県、パート女性・60歳)

■今週は斎藤環さんが回答します

 早期退職をされてこれといって病気もなく、経済的な不安も子どもの心配もない。ふつうに考えるなら、ずいぶん恵まれた境遇です。しかし60歳で老け込むのはちょっと早すぎませんか? 趣味、旅行、園芸、カルチャーセンター、スポーツジム……と、もちろん一通り検討はされてますよね。でも、今のあなたには「老い」しか目に入らないと。
 私も今年で55歳、還暦はすぐそこです。でも、自分でも意外なほど老いの恐怖を感じません。ひとつの理由がランニングです。
 作家の江上剛さんに『55歳からのフルマラソン』(新潮新書・734円)という著作があります。57歳で仲間とランニングをはじめた江上さんは、4回目のマラソン大会でサブフォー(4時間切り)を達成。メタボ気味だった身体も引き締まり見違えるほど健康になりました。
 実は私もこの本に感化されて、51歳からフルマラソンに出場するようになりました。この年齢で身体能力が向上するのは、単純に喜ばしいものです。大会ごとに記録を延ばして、もう少しでサブフォーというところまできました。来年の東京マラソン初参加が今から楽しみです。
 とはいえ、走ることで「老い」に抵抗しよう、というわけでもないのです。
 私が愛読する本に、村上春樹さんの『走ることについて語るときに僕の語ること』があります。自伝的エッセーとして読んでも面白いのですが、本書のもう一つのテーマは村上流「老いの迎え方」だと思います。
 本書で村上さんは、加齢とともにかつてのように走れなくなった自身について、繰り返し言及します。そのうえで「そのような自分の姿を、言うなれば自然の光景の一部として、あるがままに受け入れていくしかない」と述べています。
 「老い」の過程をしっかりと受容するために走るということ。そうせよと言いたいわけではありません。ただ私は、そのような形で、ランニングから勇気づけられているという事実をお伝えしたかったのです。
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 次回は評論家の荻上チキさんが答えます。
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 ■悩み募集
 住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。
    −−「悩んで読むか、読んで悩むか 年齢を受け入れ、勇気を持つために 斎藤環さん [文]斎藤環」、『朝日新聞』2016年10月23日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2016102300014.html



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