覚え書:「笑いにのせて:4 波風立てる、それがテレビ 司会者・久米宏さん」、『朝日新聞』2016年08月19日(金)付。

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笑いにのせて:4 波風立てる、それがテレビ 司会者・久米宏さん
2016年8月19日


久米宏さん
 永六輔さんにはいつも怒られていました。1985年、「ニュースステーション」が始まって数カ月のころです。「だめだよ久米ちゃん。放送ってのは『送りっ放し』って書くけど、それじゃだめなの」って。

 「今までにないニュース番組を作る」と意気込んだものの、当初は視聴率で苦戦が続いていました。そんな時、渋谷にあった小劇場「ジァン・ジァン」に行くといつも永さんがいて、僕に声をかけてくれたんです。

 永さんは、自分のラジオ番組にはがきを送ってくれた人には全員、返事を出して、どんな人がどんな風に聴いているのか、なるべくなら会いにも行ってみるという主義。さすがにテレビでは難しいと思いましたが、その言葉で「丁寧に放送しよう」という気になりましたね。

 そもそも、永さんがいなかったら僕はここにいません。67年、TBSにアナウンサーとして入社したものの、極度の緊張が原因ですぐに体調を崩しちゃった。医者から「そろそろ仕事してもいいですよ」と言われて声がかかったのが、70年に始まった永さんの「土曜ワイドラジオTOKYO」。最長で朝9時から夕方5時までの生放送で、外回りのリポーターになったんです。

 永さんがパーソナリティーだった5年間、週1回、長時間の番組を、難しい話からくだらない話まで、一言一句聞き漏らすまいという意識だった。僕はその後、テレビへ行って「ぴったしカン・カン」や「ザ・ベストテン」の司会をやるんですが、ものの考え方や仕事のやり方、ネタをこの5年間で仕込んだ。番組を通じて萩本欽一さんと知り合い、(コント55号がレギュラーだった)「ぴったしカン・カン」につながったし、永さんに黒柳徹子さんを紹介されたことが「ザ・ベストテン」が始まる最初のきっかけ。すべて、永さんから始まったんです。

 「お上の言ってることは、必ずしも正しくないぞ」ということを、ユーモアを交えて広めた人でした。尺貫法の復権運動なんて、まさにその象徴でね。

 高校1年の時に60年安保なんです。マスコミは政権をチェックするのが最大の使命で、存在理由なんだという思いを子どもの頃から持っていた。加えて、永さんや野坂昭如さんの影響もとても受けました。

 ■「11PM」から学んだ

 大橋巨泉さんはゴルフ場でよく一緒になり、「お前は俺の(大学の)後輩なんだからよ!」と、先輩風を吹かされてきました(笑)。仕事でご一緒する機会はほとんどなかったけれど、ラジオ関東(当時)の「昨日の続き」に巨泉さんが初めて登場した時は衝撃で、「こんな面白い人がなぜ今まで出なかったんだろう」と。政治ネタから下ネタまでなんでもありで、1回も聞き逃していなかったんじゃないか。超ヘビーリスナーでした。「11PM」もよく見ていた。ニュースステーションが最も影響を受けた番組を挙げるなら、それは間違いなく11PMです。

 ニュースステーションは、内容とともにセットや服装、座っている椅子や筆記用具まで、それまでのニュース番組が一番考えてこなかった「どう見せるか」にもこだわった。僕が小宮悦子さんを見るふとした目線とかね。まばたき一つでも映るテレビでは、そういうことが重要だと思う。11PMから学んだことです。

 キャスターがいて、コメンテーターや天気予報のお姉さんがいる。「今日はよそよそしいけど、この2人なんかあった?」と視聴者が感じる日があってもいい。出演者には、見る人に個性が伝わるようにしてもらっていました。

 ■誰だってミスをする

 今のテレビ、特にニュース番組を見ていると、局が失言を怖がっているのか、出演者はガチガチの台本を読まされている。自分が選んだ言葉をしゃべっていない。安全運転が過ぎますよ。テレビは世の中全体の鏡。皆がおもんぱかっちゃって、今の時代を象徴している感じがする。僕もそうですが、永さんや巨泉さんたちも、どこかで波風を立てたいという思いがあったように思います。それがテレビだ、と。

 失敗したら、謝ればいいじゃないですか。マスコミもミスをするし、政府だってミスをする。僕もニュースステーションで何度も間違いました。でも、ミスしたからって矛先が鈍ってはいけないと思うんですね。

 僕が永さんや巨泉さんから受け継いだこうした思いは、今の若い人にこそ受け継いでほしい。テレビやラジオにはまだ未知の、誰もやったことのないことが出来るし、可能性があるに違いないんですから。(聞き手・後藤洋平)

 =おわり

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 くめ・ひろし 1944年生まれ、埼玉県出身。早大卒業後、TBSに入社し、79年夏フリーに。85〜2004年、「ニュースステーション」(テレビ朝日系)に出演。
    −−「笑いにのせて:4 波風立てる、それがテレビ 司会者・久米宏さん」、『朝日新聞』2016年08月19日(金)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12518261.html





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