覚え書:「耕論 もんじゅ、廃炉の先は 鈴木達治郎さん、遠藤哲也さん、橘川武郎さん」、『朝日新聞』2016年09月24日(土)付。

Resize4734

        • -

耕論 もんじゅ廃炉の先は 鈴木達治郎さん、遠藤哲也さん、橘川武郎さん
2016年9月24日

 巨額を投じ続けた末、廃炉の流れが決まったもんじゅ。だが、なくすだけでは解決しない問題が山積している。核燃料サイクル政策はどうなるのか。原子力外交の行方は。

 ■核燃料サイクル見直しを 鈴木達治郎さん(長崎大学核兵器廃絶研究センター長)

 もんじゅは間違いなく四面楚歌(しめんそか)の状況でした。実用化の時期が明示されなくなるなど政策上の開発意義が薄れ、管理の不備も重なった。運転を続けることを前提とする文部科学省の姿勢は納得できません。廃炉が決定されるのなら妥当な判断といえます。

 これまで「もんじゅは不可欠」としてきた経済産業省と電力業界も、今回は支援できないという姿勢を示した。なのに、高速炉研究と核燃料サイクルの継続を明言していることは、理解に苦しみます。

 政府はまず、核燃料サイクル全般の研究開発は失敗だったと認めるべきです。そのうえで、使用済み核燃料をすべて再処理する路線の見直しを含めた総合的な議論を重ね、国民の合意を目指すべきでしょう。

 ただし原子力政策の問題はもんじゅをやめて済むことではありません。高速増殖炉開発と再処理はプルトニウム利用を目指した路線の両輪でした。高速増殖炉の開発が中止になれば、使用済み核燃料の再処理の意味は失われます。

 開発を継続する方法として国際共同研究開発を続けることも考えられますが、その相手となるフランスでは原子力政策全体の見直しが進められています。電力供給における原発の比率を、2025年には現行の75%から50%に下げようとする方向にあります。原子力産業を支えるだけで大変な状況にあり、研究開発にかけるコストの問題もあり、フランスで開発を進める意義が問い直されることが今後、あり得ます。

 国内外にたまっている日本のプルトニウムを減らすために、当面はふつうの原発で燃やすプルサーマル発電を進めるにせよ、その場合は使い終わったウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の扱いが問題になります。

 政府はMOX燃料を含む使用済み核燃料の全量再処理を掲げています。しかし、高速炉開発の将来が不確実になった場合には、使用済みMOX燃料を再処理せず、直接地下深くに埋めて処分する選択肢を真剣に検討する必要性に迫られるでしょう。

 再処理せずに地層に直接埋める処分を少しでも取り入れれば、日米原子力協定で米国が認めた再処理の意義が薄れ、18年に期限が迫る協定改定で再処理が認められなくなるのではないかと懸念する人もいます。核燃料サイクル潜在的な核抑止力になると考える人もいます。サイクル路線を支えるのはこうした人たちですが、説得力に欠けるといわざるをえません。

 福島第一原発事故で溶けた燃料や、研究で使ったり破損したりした燃料などをすべて再処理するのは現実的ではありません。使用済み核燃料を廃棄物処分の問題として捉え直す必要があります。

 (聞き手 編集委員・服部尚)

     *

 すずきたつじろう 51年生まれ。専門は原子力工学電力中央研究所上席研究員、原子力委員長代理などを経て2015年から現職。

 ■プルトニウムどう減らす 遠藤哲也さん(日本国際問題研究所特別研究員)

 使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを取り出して使う核燃料サイクルの維持には賛成です。新しい高速炉研究の態勢が整うまで時間がかかるでしょう。それまで、もんじゅで研究を続けられないでしょうか。

 燃料を一度だけ燃やして捨てるなら、化石燃料を燃やす火力発電と変わりません。消費した以上のプルトニウムを生む高速増殖炉があってこそ、原子力発電に優位性が生まれます。

 たしかに欧米で高速増殖炉の開発を中止している国があります。しかし、中国、インド、ロシアは現在、実用化に力を入れています。

 フランスに、次世代高速炉の実証炉「ASTRID(アストリッド)」の計画があります。もんじゅ廃炉にし、フランスとの共同研究で高速炉研究を維持しようという意見がありますが、中核技術まで開示され、共有できる確証はあるのでしょうか。

 日本が国内外に保有するプルトニウムは約48トン。青森県六ケ所村の核燃料再処理工場が動き始めれば、さらに増える恐れがあります。プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を普通の原発で使う「プルサーマル発電」を続ければ、核燃料サイクルを維持できるとの意見もあります。ただし、それはプルトニウムの消費が目的で、エネルギーの有効利用の点では間に合わせでしかありません。

 家庭向け電力販売が自由化され、電力業界は競争が激しくなっています。もんじゅ廃炉にして新しい高速炉研究に取り組むとしても、電力会社から協力を得るのは難しい。核燃料サイクルは国策として維持せざるを得ないでしょう。現在、日本には原子力政策を統括する組織がありません。政府のリーダーシップで、もんじゅ廃炉にするメリット、デメリットを明示した上で判断してほしいです。

 核燃料の再処理は日米の原子力協定で認められています。核保有国以外ではアジアで唯一です。協定は2018年7月に期限を迎えます。

 約30年前、日本のプルトニウム保有量が少なかった時でさえ、協定締結前に米上院で不承認の共同決議案が提出され、協議は難航しました。そのため米国政府は今回、議会の承認が必要になる協定の再締結をしようとは考えないでしょう。11月に決まる新しい米大統領の考え方で変わる可能性はありますが、協定が自動延長となる可能性が高いという印象をもっています。

 ただ、米国はプルトニウムがさらに増える可能性がある日本の現状に納得していません。自動延長後は米国が6カ月前に事前通告すれば、いつでも協定を破棄できます。日本がプルトニウムをどう計画的に減らすのか、世界に具体的に示さなくてはなりません。

 (聞き手・杉本崇)

     *

 えんどうてつや 35年生まれ。88年の日米原子力協定の改定に外交官として関わった。原子力委員長代理も務めた。

 ■廃棄物処分の道筋示せ 橘川武郎さん(東京理科大学教授)

 現行のエネルギー基本計画には、高速炉開発の意義として、無毒化するのに何万年もかかる放射性廃棄物の量を減らす減容化や、毒性の低減が盛り込まれています。もんじゅは、プルトニウムを増殖するという本来の目的ではなく原発問題の後始末の研究開発として位置づけられている。非常に斬新な視点です。

 もんじゅ廃炉にするのであれば、この研究開発を今後どう進めるのか、道筋を示さなければなりません。

 使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出す過程で、高レベル放射性廃棄物が生じます。すでに国内には約1万8千トンもの使用済み燃料が保管されています。青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場は建設をほぼ終えており、実際にプルトニウムを取り出す試験もしています。もはや後戻りはできない状況です。今後、再処理工場が稼働したら、それに伴い、高レベル放射性廃棄物が生まれることになります。

 高レベル放射性廃棄物は、何百メートルもの地下深くに埋めて処分することになっていますが、何万年もの間、地層処分の情報を後世に伝えていくことは社会的に難しい。高レベル放射性廃棄物の減容化や有毒度の低減が実現できなければ、処分の難しさに直面し、原発の運転を継続していくのは困難でしょう。

 もんじゅは20年前のナトリウム漏れ事故に始まり、燃料取り扱い装置の落下や、近年の点検漏れなどの管理不備など、ガバナンスが問題になってきました。このようなずさんな管理状況では、廃炉を迫られてもやむを得ないと思います。

 しかし、管理体制を改善すれば、高レベル放射性廃棄物対策として開発を継続する意味は十分にあります。国際原子力機関IAEA)などの国際機関による監視体制を採り入れるなどの手立てをとれば、検討の余地はあります。

 もんじゅを運転する前提として、新規制基準に対応するための追加的な安全対策などに費用がかかることも課題になっています。電力会社は、もんじゅへの資源の投入に後ろ向きです。電力自由化が進む中で、民間にこれらのコストを負わせるのは難しい。国が責任をもって担うべきでしょう。

 フランスとの国際協力で、高速炉開発の継続を維持するという意見もありますが、廃棄物がかかわる問題で、海外の施設に研究を預けることは避けるべきです。

 もんじゅ廃炉になった場合、地元対策も課題になります。うがった見方かもしれませんが、もんじゅ廃炉の見返りに、政府は原発の増設を地元に持ちかけはしないでしょうか。廃炉になったその先に何があるのか、注視する必要があります。

 (聞き手・服部尚)

     *

 きっかわたけお 51年生まれ。エネルギー産業論。東京大社会科学研究所、一橋大の教授を経て、2015年から現職。
    −−「耕論 もんじゅ廃炉の先は 鈴木達治郎さん、遠藤哲也さん、橘川武郎さん」、『朝日新聞』2016年09月24日(土)付。

        • -


http://www.asahi.com/articles/DA3S12574276.html





Resize4708

Resize3745