覚え書:「書評:ル・コルビュジエから遠く離れて 日本の20世紀建築遺産 松隈洋 著」、『東京新聞』2017年01月15日(日)付。

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ル・コルビュジエから遠く離れて 日本の20世紀建築遺産 松隈洋 著

2017年1月15日
 
◆異国の経験を生かす工夫
[評者]市川紘司=建築史家  
 日本のモダニズム建築の記録調査や保存をおこなう「ドコモモ・ジャパン」代表を務める建築史家の最新論文集。
 西欧の近代社会において、新しい技術や市民生活のために生み出されたモダニズムの建築を、日本は戦前から戦後にかけて積極的に受容し、独自に昇華した。こうして生まれた日本の二十世紀建築遺産は、質量ともに世界有数のものと言っていいが、これに決定的な影響を与えたのが、上野の国立西洋美術館を含む作品群がユネスコ世界文化遺産に登録された建築家ル・コルビュジエである。とくに戦後の日本建築界の中枢は前川國男丹下健三など、コルビュジエから多大なる影響を受けた「コルビュジエ派」と呼ばれた建築家の系譜が担った。中国など他のアジア諸国と比べても、日本建築の「コルビュジエびいき」は抜きん出ている。
 しかし本書の筆致は、あくまでもそのコルビュジエから「遠く離れて」。コルビュジエが代表する西洋由来のモダニズムを、遠い異国の地である日本の風土や生活様式にいかに適合させるか。そのために建築家が試みた創意工夫の内実とプロセスこそ、本書が丹念に解き明かすところである。近年再整備された京都会館や、戦後すぐの復興住宅案など、本書の題材は多岐にわたるが、建築を、それを利用し生活の舞台とする人々の「生きられた全体」だと捉える著者の視点は一貫している。
 改めて気付かされるのは、日本の二十世紀建築は様々な国・地域や時代との交感関係から生み出されたということだ。日本にやって来た外国人建築家が古い街並みや集落に対する新鮮な見方を提供し、日本人建築家は異国での経験を木造の伝統建築に取り入れる。こうした異文化との不即不離の関係から、日本的モダニズムは創造されたのである。そもそも日本の伝統木造建築は中国建築の輸入と解釈の上に成り立っている。近代化が急速に進展する最中でも、日本建築に息づく精神性は形を変えて継承されているのだ。
みすず書房・3888円)
<まつくま・ひろし> 1957年生まれ。建築史家。著書『モダニズム建築紀行』など。
◆もう1冊 
 豊川斎赫(さいかく)著『丹下健三−戦後日本の構想者』(岩波新書)。復興から高度成長、バブル期まで、戦後日本を象徴する建築空間をたどる。
    −−「書評:ル・コルビュジエから遠く離れて 日本の20世紀建築遺産 松隈洋 著」、『東京新聞』2017年01月15日(日)付。

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