覚え書:「文化の扉 熱狂、ハロウィーン 仮装を楽しみ、SNSで共有」、『朝日新聞』2016年10月23日(日)付。

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文化の扉 熱狂、ハロウィーン 仮装を楽しみ、SNSで共有
2016年10月23日

熱狂、ハロウィーン<グラフィック・上村伸也>

 オレンジ色のお化けカボチャが目につく季節。31日はいよいよハロウィーン。魔女やドラキュラ、ゾンビなどさまざまに仮装した人たちが街に繰り出す。外国人も驚くほどの日本での熱狂ぶり。一体なぜ?

 10月31日は古代ケルト暦で1年の最後にあたる。ハロウィーンの行事や風習がアイルランドからの移民によって大西洋を越え、米国に伝わったのは19世紀とされる。

 ノンフィクション作家リサ・モートン著『ハロウィーンの文化誌』(原書房)によると、合言葉の「トリック・オア・トリート」が爆発的に広まったのは第2次世界大戦後の1950年代だ。製菓会社や映画会社、テレビ局の仕掛けもあり、新興住宅街で子どもがお菓子をねだって回ったという。

 日本では、70年代から「キデイランド原宿店」(東京都渋谷区)が都内に住む在日外国人向けに、ハロウィーン関連のグッズ販売に力を入れるようになった。表参道で仮装パレードを実施したのは83年10月の最後の日曜日である。

 ハロウィーンという名前すら日本人にはほとんど知られていなかった時代。「参加者は外国人のお客さまが多かったようです」とキデイランド広報担当。86年には、外国人DJが軽快なテンポで雰囲気を盛り上げたという。

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 日本のハロウィーンを市場調査している立教大大学院ビジネスデザイン研究科の田中道昭教授によると、ハロウィーン人気が急速に高まったのは2010年代からである。先導したのは20代前半から30代前半の若者たち。「仲間や友人同士のつながりを重視し、異性にもてるより同性から共感を得ることへの関心が高い」と分析する。

 スマートフォンやSNSの普及も大きい。パレードや仮装パーティーの参加をSNSを通じて呼びかけ、画像をコメントつきで投稿する。「クリスマスやバレンタインは一対一の関係で楽しむが、ハロウィーンはみんなで一緒に楽しもうと感動や情報を共有・拡散する傾向がある」と田中教授。「本音パワーを爆発させる重要な場にもなっている」と言う。

 日本記念日協会(長野県佐久市)の推計では、今年のハロウィーンの市場規模は前年比約10%増の約1345億円。バレンタインデーを上回る見込みだ。

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 日本のハロウィーンは仮装を楽しむ日というイメージが強い。「聖地」と呼ばれる東京・渋谷では昨年、身動きが取りにくいほど人であふれ、警視庁が数百人規模の厳戒態勢で臨んだ。スクランブル交差点に規制線を張り、「DJポリス」も「譲り合いの心を持って」などと軽妙な語り口で誘導した。

 駅や商業施設のトイレが占拠されたり、汚されたりするなど着替え時のマナーも問題になっている。渋谷区は昨年、更衣室として特設テントを公園に11基設置した。今年はほかにも民間の大型ダンススタジオが有償の更衣室となり、最大500人を収容できる。

 ハロウィーンは秋を代表する祭りになった。今年はアニメ映画「君の名は。」に登場する高校の制服や、「シン・ゴジラ」の自衛隊の制服のコスプレも登場するのだろうか。

 (編集委員・小泉信一)

 ■異界受け入れる信仰が源流 民俗学者・小泉凡(ぼん)さん

 曽祖父の小泉八雲ラフカディオ・ハーン)が子どものころ住んだアイルランドでは祖先の霊を迎えるために家や墓の掃除をし、お墓参りをする地域があります。仕事も早めに切り上げ、新しい火をおこし、暖炉の近くに祭壇をつくっておくのです。

 日本のお盆に似ていますね。火は「魔除(まよ)けの火」とも解され、悪霊退散に霊験があると考えられたようです。見えないものを見ることができるとすれば、刈っていない夏草の穂と同じくらいの数の「飛び交う精霊たち」が見えるといいます。

 異界を抵抗なく受け入れる民俗信仰がハロウィーンの源流なのでしょう。アイルランド移民やキリスト教の影響で米国で少しずつ変化し、世界に広まったと考えられます。

 <装う> 絵や模様を顔に描くフェイスペイントも定着している。日本フェイスペイントイベント協会(東京都大田区)が9月にインターネットで調査したところ、10代女性の半数以上が興味があると回答。特に「血のり」が人気があった。
    −−「文化の扉 熱狂、ハロウィーン 仮装を楽しみ、SNSで共有」、『朝日新聞』2016年10月23日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12621530.html


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