覚え書:「リレーおぴにおん 本と生きる:13 個性出る白黒だけの世界 三上貴恵さん」、『朝日新聞』2016年11月1日(火)付。

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リレーおぴにおん 本と生きる:13 個性出る白黒だけの世界 三上貴恵さん
2016年11月1日


三上貴恵さん
 本や雑誌、ポスターからスマートフォンまで。さまざまな場所で目にふれる文字の書体をデザインしています。いま取り組んでいるのは、マンガの吹き出しに使う新しい書体です。

 具体的なイメージは、たとえば明朝体やゴシック体といった、書体の新しいコンセプトを考えたうえで試作します。方向性が決まると、約6センチ四方の専用の方眼紙に、手書きで文字の原図を書いていく。三角定規と雲形定規を使い、文字の輪郭をシャープペンシルで描きます。

 初期段階にはひらがな、カタカナ、そしてはねやはらい、止めなどの要素が含まれる「永」など500〜600字の定型漢字です。これをスキャナーで読み取ってパソコンに入力し、文字を印字して太さやバランスなどを細かく検査し、修正します。1日20〜25字を1人のデザイナーが手がけますが、書体によっては漢字や記号など2万3千字が必要で、長い期間の作業となります。

 うまくいかないと何度も書き直すのですが、一発でイメージ通りの文字を描けたときはうれしいもの。画数の多い漢字では、覚悟を決めて取りかかります。コツコツとした作業は好きですが、文字をきれいに書くコツは、真摯(しんし)に文字に向き合うことにつきます。何に使われるかに合わせて、だれでも読みやすい書体を心がけています。

 どんなデザインにするのか。アイデアは仕事中ずっと考えているのですが、何もしていないときにふと、ひらめくこともあります。造形や色が自由な絵とは違い、文字は形が決まっていて白黒だけの世界です。こうした制約があるとはいえ、個性が出ます。書体デザイナーに求められるのは、バランス感覚とセンスだと思います。

 入社してからは、街中でも看板の文字のデザインに目が行ったり、広告に使われている書体を意識したりするようになりました。「この文字は面白いデザインだな」とつい思うことも。本や雑誌を読んでいても、文字のすき間は適切か、並びが美しいか、といった点が気になってしまいます。

 最近はスマホなど小さい画面では見分けづらい濁音と半濁音がわかりやすくなるように、例えば「ば」と「ぱ」の「゛」と「゜」を大きくし強調している書体もあります。

 書体にも流行があるんですよ。1990年前後は大きめにデザインされていた文字が、やや小さい伝統的な雰囲気のものが好まれる傾向になっています。最近は横書きが増えているので、明朝体の文字の横線を太くするといった工夫もして読みやすくしています。

 (聞き手と撮影・川本裕司)

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 みかみきえ 書体デザイナー 1986年生まれ。美大グラフィックデザインを学び、2008年、モリサワ文研(兵庫県明石市)に入社。同社には13人の書体デザイナーがいる。
    −−「リレーおぴにおん 本と生きる:13 個性出る白黒だけの世界 三上貴恵さん」、『朝日新聞』2016年11月1日(火)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12636120.html





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