覚え書:「自生の夢 [著]飛浩隆 [評者]円城塔 (作家)」、『朝日新聞』2017年02月19日(日)付。
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自生の夢 [著]飛浩隆
[評者]円城塔 (作家) [掲載]2017年02月19日 [ジャンル]文芸
■「すこし・ふしぎ」な思弁的小説
飛浩隆、十年ぶりの作品集である。七編を収録し、これで二〇〇二年以降に発表された短編、中編のうち、書籍に未収録のもの全てとなる。
寡作であるが、収録作のうち二作は、SF読者のファン投票によって決まる星雲賞を受賞している。
SFという単語でなにを想像するかはひとそれぞれで、「すこし・ふしぎ」であったり、「空想科学小説」であったり、「思弁的小説」であったりする。
飛浩隆の作品は空想科学小説である。そこでは、情報化された人間が再生されたりするし、宇宙空間の暗闇を切り取って窓にすることもできる。
そうして、思弁的小説である。死後、情報として再生された人間が、自分は死後再生されたのだと気がつくことはできるだろうか。
自分がソフトウェアとして実行されているとするならば、自分はプログラミング言語、いやもっと単純に、言葉で書かれているということになりはしないか。
そうして、少し不思議である。泡洲(あわず)と呼ばれる作中の島は、全てを分解する海に浮かんでいる。その海はあらゆるものを分解するが、あらゆるものを保存している。すべてのものは失われるが、なくなりはしない。どうしようもなくバラバラになってしまって、とりもどせないだけである。
少しではなく、かなり不思議という見方もある。
いずれの作品も、視覚的、音楽的イメージを強く喚起する。しかし冷静に考えるなら、そこであたりまえのように描写されているものは、この現実の光景ではないのである。紙面に置かれた文字が音を発したりはしないことも周知のはずだ。
それでも、そこに見え、そこから聞こえる。この効果を効率的に実現するためにSFというジャンルが選ばれているのではないか。
文字を通じて、この世にはない光景が見えるのならば、そこから流れだすものは、この世にはない音楽であるかもしれない。
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とび・ひろたか 60年生まれ。『象られた力』で日本SF大賞。他に『グラン・ヴァカンス 廃園の天使1』など。
−−「自生の夢 [著]飛浩隆 [評者]円城塔 (作家)」、『朝日新聞』2017年02月19日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017022100017.html