覚え書:「文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊! [文]池上冬樹(文芸評論家)」、『朝日新聞』2017年02月26日(日)付。
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文庫この新刊!
池上冬樹が薦める文庫この新刊!
[文]池上冬樹(文芸評論家) [掲載]2017年02月26日
(1)『彼が通る不思議なコースを私も』 白石一文著 集英社文庫 670円
(2)『盲目的な恋と友情』 辻村深月著 新潮文庫 594円
(3)『活版印刷三日月堂 海からの手紙』 ほしおさなえ著 ポプラ文庫 734円
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(1)は、希望と生命と意思を主題にした不可思議な愛の小説。白石一文らしく思索が繰り広げられるけれど、それが力強く、時に感動的である。
(2)は、思春期の少女像をひきずる女たちの、一途で愚かな純情さが、憎悪と悪意へと変貌(へんぼう)する。独占欲と嫉妬を隠しながら、被害者と加害者を綱渡りで演じて罪を犯す様が、驚きのどんでん返しとともに描かれ何とも鮮やかだ。
(3)は、活版印刷でものを作る人たちの様々な人生模様が捉えられている。文中の言葉を借りるなら“さびしいけれど、あたたかい。言葉が身体にしみこんでくる”ような物語集だ。作者は、人を育むことになる、大事な悲しみを見すえている。文庫オリジナルだけれど、活版印刷で豪華な単行本を作っても(たとえ5千円でも)読者は買うだろう。優しく温かく美しい思いが交錯する物語は、抱きしめたくなるほど切なく、それを誰かの胸に届けたいと考えるからだ。愛(め)でる喜びにみちている。ロングセラーになること間違いなしの傑作シリーズだ。必読!
−−「文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊! [文]池上冬樹(文芸評論家)」、『朝日新聞』2017年02月26日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2017022600003.html
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