覚え書:「今週の本棚 橋爪大三郎・評 『創価学会・公明党の研究−自公連立政権の内在論理』=中野潤・著」、『毎日新聞』2016年11月27日(日)付。
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今週の本棚
橋爪大三郎・評 『創価学会・公明党の研究−自公連立政権の内在論理』=中野潤・著
毎日新聞2016年11月27日 東京朝刊
(岩波書店・1944円)
尋常ではない両者の関係明らかに
政権与党の公明党と、母体の創価学会。べールに包まれた両者の関係を明らかにする。
公明党は過去二○年、政局の主役だった。民主党政権の三年間を除くかなりの期間、連立与党でもあった。「平和と福祉」の公明党が、保守を掲げる安倍政権となぜ握手できるのか。国民がぜひとも知りたい政治の裏側を、丁寧に説明している。
本書の内容は、驚くべきものだ。第一に、公明党と創価学会の関係。公明党は独立性を高めるどころか《一体化がかなり進んでいる。》重要な政策では学会が公明党に注文をつけ、《両者の協議がより頻繁に行われ》ている。公明党の頭越しに、官邸と学会の幹部が直接連絡をとることもあるのだという。
これは政教一致ではないのか。いわゆる「言論出版妨害事件」(六九年)を機に、公明党と学会は「政教分離」を宣言、組織や財政を分離したはずだ。だが実態はなおも微妙。自民党はこの問題を再三蒸し返し、国会招致をちらつかせて創価学会を牽制(けんせい)した。公明党は学会を守るためにも、政権に影響力をもつ必要があるのだ。
第二に、選挙がまさに宗教活動であること。公明党の原点は都議選で、統一地方選を国政選挙並みに重視する。選挙のたびに創価学会は、F作戦(友人への依頼)を展開、大勢が重点選挙区に乗り込む。選挙の時期が重なるのは、だから困る。選挙のたび学会活動はひき締まり、その成績で幹部も評価される。10足らずの小選挙区の候補に選挙協力してもらうのと引き換えに、ほとんどの選挙区で自民党候補を支援してきた。現場で動くのは特に婦人部である。学会票は、当落を左右している。
第三に、ポスト池田時代が始まっていること。池田大作名誉会長はもう六年も公の場に姿を見せていない。原田稔会長、正木正明理事長、谷川佳樹事務総長らの集団指導が続いていた。正木、谷川両氏のどちらが後継者なのか。ところが二○一五年一一月に正木理事長が退任。《学会を率いていく次のリーダーが谷川になることは、この人事でほぼ確実になった》という。
正木、谷川の両氏が競っていた間、平和を訴える婦人部の声を抑えにくかった。池田名誉会長の鶴のひと声、はもうない。自公連携のちぐはぐの裏には、こんな背景もあったという。
第四に、小選挙区撤退論も根強いこと。中選挙区と相性のよい公明党が、非自民連立政権に参加(九三年)、小選挙区比例代表制を成立させた。中選挙区に戻したいが、当面は無理。学会員は票集めに疲弊している。連立を離脱して比例区に集中、キャスティングボートを握ったほうがすっきりする、と考える学会員も多い。政権の座にしがみつき自民党の言いなりになっている、わけではないのだ。
公明党と創価学会がこんなに一体化していることは、日本の民主主義にプラスなのか。
かつて自民党の派閥が得意だった密室政治の駆け引きが、与党協議の場に移った。オープンになったのは前進だ。公明党が政権の暴走にブレーキをかけている点も評価できる。
でも、著者が取材した創価学会と公明党の関係は、やはり尋常でない。ある信仰をもつ人びとが上部の指令どおりに、選挙運動をし、組織票を投ずる。選択肢を自分の頭で考えて投票するという、民主主義の基本が揺らいでいる。宗教がどうあろうと世俗の問題では、めいめいが良心に従って判断するのが憲法の精神のはず。ルール違反があれば、民主主義は空洞化してしまう。そういう困った状況を、本書は明らかにしている。
−−「今週の本棚 橋爪大三郎・評 『創価学会・公明党の研究−自公連立政権の内在論理』=中野潤・著」、『毎日新聞』2016年11月27日(日)付。
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今週の本棚:橋爪大三郎・評 『創価学会・公明党の研究-自公連立政権の内在論理』=中野潤・著 - 毎日新聞