覚え書:「主権者教育、校外と連携 女性参政権、英女性と高校生議論」、『朝日新聞』2017年01月13日(金)付。

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主権者教育、校外と連携 女性参政権、英女性と高校生議論
2017年1月13日

ヘレン・パンクハーストさん(右)と意見交換をする生徒たち=東京都杉並区の都立西高
 昨年、18歳選挙権が導入され、本格化した主権者教育。市民としての意識を育もうと、高校を中心に、ゲストを招いたり校外の団体と連携したりして、様々な取り組みが広がっている。国が求める「政治的中立」を考慮しながら、教育現場で手探りの試みが続く。

 昨年12月、東京都立西高校(杉並区)で、選挙権の意味や女性の政治参加について考える特別授業があった。主権者教育の一環で、希望した1〜3年の約40人が参加した。

 生徒は事前に、約100年前の英国で女性参政権を求めて闘った女性たちの姿を描いた映画「未来を花束にして」(1月27日から全国で順次公開)を鑑賞。授業では、英国での女性参政権運動を率いたエメリン・パンクハースト(1858〜1928)のひ孫、ヘレン・パンクハーストさん(52)をゲストに迎え、意見を交わした。

 映画の感想について1年の女子は「多くの犠牲を払うまで女性に参政権を与えなかった当時の社会は残酷。そこまでして手に入れた選挙権なのに、棄権する人が多いというのも、ある意味で残酷だと思った」。3年のウェケ・シーラ恵(けい)さん(18)は「特定の人だけがいい思いをするような法律が作られないようにするために、私たち有権者の責任も重いと思った」と語った。

 映画には、参政権を訴える女性が命を落とす場面もある。ある男子が「命が失われることなくして変革は起こせないのか」と疑問を投げかけると、ヘレンさんはこう応じた。「今はSNSが大きな影響力を持つ。皆さんの世代は最新技術を使い、暴力や命の犠牲なしに変革を起こせるはず」

 議論はやがて自分の国の話に。女性が参政権を得て70年がたった日本で、男女平等は実現しているか――。次々に声が上がる。

 「まだ差別意識はある」「男は大黒柱、女は家事というイメージは、女の私にもあるし、悪いとは思わない」。林真衣香さん(18)は「選挙に立候補した人の同じような発言でも、女性なら『性格きつそう』、男性なら『リーダーシップがありそう』と、とらえられ方が違うと感じた」と、初めて投票した昨年の参院選を振り返った。

 この特別授業を担当した篠田健一郎先生は「政治的中立が求められるなか、主権者教育で何ができるのか悶々(もんもん)としていた」という。そんな時、映画会社から知人経由で女性参政権についてヘレンさんと語り合う授業の話が舞い込んだ。「選挙権の意味を生徒が考えるいい機会になる」と考え、授業を企画したという。

 授業後の感想文で2年の男子は、18歳選挙権についてこう書いた。「持てることを当たり前のことだと思わず、じっくり考えて行使しようと思った」

 ■「中立」考慮しつつ授業に幅

 文部科学省が昨年春、全国の高校を対象に調査したところ、主権者教育を2016年度に実施する予定があると答えたのは、高3で約96%、高1、高2でも90%を超えた。内容は「公職選挙法や選挙の具体的な仕組み」が各学年とも7〜8割で、実際の政治についての話し合いや模擬選挙などの実践的な学習は3〜4割にとどまった。

 同省は教員に「政治的中立」を求めており、学校現場では「意見が対立している現実の政治テーマは扱いにくい」との声がある。こうしたなか、校外の団体などと連携して授業の幅を広げる動きが出ている。同省の調査に、16年度の授業などで選挙管理委員会NPOなどの団体との連携を予定していると答えた高校は4割強あった。選管を招いての模擬選挙や議員による出前講義、大学教授の講演などの事例があるという。

 次の学習指導要領では、高校での必修科目「公共」が新設される見通しだ。模擬選挙や模擬裁判、ディベートなどを通じて地方自治や司法などについて、より幅広く学ぶことになる。

 早稲田大学の近藤孝弘教授(政治教育学)は「主権者教育は学校教育全体で担うべきだ。現実の政治的問題を取り上げて、その解決を追究する過程で社会の諸問題を考え、行動する力をつけるような授業が望まれる」と指摘する。(三島あずさ、杉山麻里子)
    −−「主権者教育、校外と連携 女性参政権、英女性と高校生議論」、『朝日新聞』2017年01月13日(金)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12744569.html


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