覚え書:「【書く人】性差の現実に迫る『先生の白い嘘』 漫画家・鳥飼茜さん(35)」、『東京新聞』2017年04月30日(日)付。

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【書く人】

性差の現実に迫る『先生の白い嘘』 漫画家・鳥飼茜さん(35)

2017年4月30日


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 「ゴキブリみたいなものですよね。この世に存在するのは知ってるけど、目の当たりにするとびっくりする」。目を背けたくなるほど生々しい。でも読むのをやめられない。そんな感想を言うと、鳥飼茜さんは、こんなふうにたとえた。
 主人公は二十四歳の高校教師、美鈴。大学時代に女友達の婚約者にレイプされ、その後も脅されて体の関係を強いられている。教え子の男子高校生に心を動かされながら、心身の服従から逃れようともがく−。
 男女の性差は、身体的にも社会的にも厳然とある。そこから発生する「性暴力」の問題と、この作品で真正面から向き合った。コミック誌「月刊モーニングtwo」で連載(単行本は六巻まで発売)し、話題を呼んでいる。近く完結する予定だ。
 「私たちのすぐ隣で起きていることです。実際身の回りでも話を聞くし。だから奇をてらってるわけではなく、『そういうことありますよ』って漫画でも言っていいんじゃないかと」
 性暴力は、被害者の見た目や年齢に関係なく起きる。その理不尽さ、不可解さへの恐怖を抱えて生きてきた。「それを自分で因数分解したい。男女以前に人間同士だから、ある程度まで分解できるはずだと思って」
 作品では男女の不平等を描きながら、「女は弱者、男は強者」という単純な構図にはしない。主人公を痛めつける男は、幼少時の過酷な体験から女性を憎悪するようになったのでは、とにおわせる背景も描かれる。女と男は、分かり合えるのか。読者は考え込むことになる。
 美大を卒業して半年後にデビュー。『地獄のガールフレンド』『おんなのいえ』などの作品で、等身大の女性の生き方を鋭く見つめてきた。今までの日本文化は「女の人が、女の人の言葉で語ることが置き去りにされてきた気がする」と語る。
 離婚後、小学生の男の子を育てている。「お母さんなのに恋愛なんて」という言葉もしょっちゅう耳にする。男親なら言われない言葉。日々、こうした矛盾を体感する。「子どもには、自分の生きる姿をどれだけ前向きに見せられるかだと思う」
 女性や弱者が抑圧される社会で、「正義の旗手」を目指しているわけではない。「自分が気持ち良く生きたい。その上で邪魔なものを取り去りたい」
 講談社・各六〇七円。
 (出田阿生)
    −−「【書く人】性差の現実に迫る『先生の白い嘘』 漫画家・鳥飼茜さん(35)」、『東京新聞』2017年04月30日(日)付。

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