覚え書:「父と私 [著]田中眞紀子 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2017年05月21日(日)付。

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父と私 [著]田中眞紀子
[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)
[掲載]2017年05月21日
 
 田中角栄の娘として生まれること、その人生は「歴史的証言者」たらざるを得ない。老境の今、著者はその役を果たした。
 幼少期から現在までを五章に分け、自立するまでと自立後とを語っていく。父親には、著者をアメリカ留学にだし、結婚式では涙のスピーチを行い、自らの政治家生活の裏側も見せ、良質の日本人を育てようとの気くばりがある。著者の筆は客観的で冷静であり、結果的に日中国交正常化日本列島改造論など田中外交と内政の本質を抉(えぐ)りだすことに成功している。
 角栄の知られざる一面(「繊細な本性」や「“拒めず”の性格」など)も具体的に語る。中国要人との信頼関係、ロッキード事件への率直な疑問、さらには角栄が病に倒れたあとの姑息(こそく)な政治劇にふれて著者は歴史的分析に辿(たど)りついた。自らも外相として政治の現場を見たからであろう。
 安倍政権には建設的な議論を行う「真面目な姿勢」が欠如という指摘は重い。
    −−「父と私 [著]田中眞紀子 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2017年05月21日(日)付。

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