覚え書:「世界の果てのありえない場所−本当に行ける幻想エリアマップ [著]T・エルボラフ、A・ホースフィールド [評者]横尾忠則(美術家)」、『朝日新聞』2017年06月11日(日)付。

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世界の果てのありえない場所−本当に行ける幻想エリアマップ [著]T・エルボラフ、A・ホースフィールド
[評者]横尾忠則(美術家)
[掲載]2017年06月11日

■足がすくむ?究極の旅行案内

 今日では地球を周回する人工衛星の微視的な視線による盗撮から逃げることもできないほど何処(どこ)も彼処(かしこ)も暴かれて、地球は驚くほど縮小されています。ジュール・ヴェルヌの「驚異の旅」もウンベルト・エーコの『異世界の書』も、もはや地上の未知も神秘も謎も何ひとつ物珍しい場所もないほどすっかりツーリストに荒らされてしまいました。
 ところが、地図にもないような「世界の果てのありえない場所」の地図がここにあるのです。英国の作家と地図作家が、地球最後の場所の地図を作製していたのです。とはいうものの、あくまでも物質としての地球の場所で、超意識でコンタクトしなければ接触できないような別次元のアストラル界ではないことをお断りしておきます。物質的肉体とある程度の資金と体力と好奇心があれば誰でも行ける「ありえない場所」であります。
 地球を何周もしたツーリストが〈ここだけ〉は見落としたか、その存在を知りながら足がすくんで寄りつけず、素通りしてしまった場所だったかも知れません。
 ではその場所を簡単に説明しましょう(といっても写真資料が乏しい)。不親切といえば不親切な旅行案内書ですよね。もしかしたら、全体像を見せてしまうとかえって寄りつく人が少なくなるのを危惧してあえて情報を内緒にしているのかも知れません。それだけに好奇心はあおられます。
 例えばこんな場所です。廃虚化してしまったり、誰にも見向きもされない風変わりな無用の建造物であったり、文明から隔絶された無人島であったり、この世とあの世の境域へ連れだそうとする死者から呼び掛けられる場所だったり、世界一幽霊が沢山(たくさん)でる城とか。
 未来の文明はそこまで来ています。その先は絶望。現実を忘れるためには俯瞰(ふかん)の視線しかないでしょう。現実より幻想の世界にリアリティーを求める都市伝説愛好家向けの旅行案内書がこれ。
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 Travis Elborough 71年生まれ。英国の作家・文明評論家▽Alan Horsfield 地図作家。
    −−「世界の果てのありえない場所−本当に行ける幻想エリアマップ [著]T・エルボラフ、A・ホースフィールド [評者]横尾忠則(美術家)」、『朝日新聞』2017年06月11日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017061100006.html








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トラビス・エルボラフ アラン・ホースフィールド
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