日記:21世紀の宗教に求められる条件

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 新時代の宗教
 戦後、しばらく無力状態にあった神道や仏教も、神道は地縁、仏教は血縁との結合は根強く、神社は初詣でや祭り、寺院は葬式と先祖供養という以前の地位と役割とを回復した。キリスト教もGHQの占領下ほどではないが、それなりに定着している。飛躍的に勢力を伸ばした新・宗教とあわせ、現代の日本の宗教は、教派のうえからも性格からも新旧混在した時代となっている。
 そのなかにも、表面化しつつある新時代の傾向が、いくつか読み取られる。
 第一は、他の宗教との共存である。多価値時代、国際化時代を迎え、他の宗教を排斥する宗教は、結局は自己の宗教の排斥にもなる。宗教的寛容ということが、従来のようなシンクレティズムや宗教的無関心ではなく積極的価値として要請されている。
 第二は、「信徒の信徒による信徒のための宗教」への方向である。「在家仏教」とか「信徒使徒職」、「解放の神学」、「民衆の神学」の言葉が語るように、主体が聖職者から信徒に移っている。かりに聖職者が存続しても、それは信徒の上に君臨するものではなく、信徒に奉仕する役職である。
 第三は、人間性の回復が求められていることである。情報化と新・宗教も含めて教団の大規模化は、人間の生活環境を無機化しつつある。そのなかで、人間同士の暖かいふれあいをもたらす小さな宗教や、町の教会がかえりみられている。
 第四は、宗教活動としての世界的、人類的な課題である。これはグローバル化、国際化も関連するが、世界のどこかで災害が起きたとき、これまでは現場での救済活動はキリスト教に限られていた。今では、どの宗教にも活躍が期待されている。ほかに、平和、地球環境、福祉などは日本の宗教の大事な活動になっている。
 第五は、宗教そのものと他の救済方法との境界の流動化である。宗教とか教団を名乗らず、「いやし」、「セラフィー」、「自己啓発」をうたう分野が、従来の宗教の場に代わって登場しつつある。もともと宗教用語であった「霊性」という言葉が、その分野で愛好され、逆に宗教の方でも改めて顧みられている。
 すでに一九一八(大正七)年の世界大戦後、宗教学者姉崎正治は『新時代の宗教』(博文館)を著し、このことを次の三項にまとめて指摘している。
 人格の尊厳を認め、人間心霊の無尽なる価値を発揮すること。
 人類生活の感応結合に依って、人性の醇化を成就すること。
 一切生存の根底に神霊あるを信じ、人心人生における神霊の開発を人生の帰趣とすること。
 姉崎も本書で「霊性」に言及しているが、わたしは、「霊性」は、超越的存在とその前での人間の罪性、日本の宗教でいえば凡夫の自覚がともなうものであることを付け加えておきたい。
    −−鈴木範久『日本宗教史物語』聖公会出版、2001年、153−155頁。

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