日記:宗教は民主主義社会で重要な役割を果たしている


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宗教は民主主義社会で重要な役割を果たしている
中島 その点で、島薗先生が翻訳されたロバート・N・ベラーの『心の習慣‐‐アメリ個人主義のゆくえ』が示唆に富むと思います。
 「ハビッツ・オブ・ザ・ハート(心の習慣)」というのは、もともとはフランスの思想家トクヴィルの議論ですね。トクヴィルは『アメリカのデモクラシー』で、民主主義にとって一番重要なのは国家と個人の間のアソシエーション、つまり中間共同体だと強調しました。労働組合や社会団体、宗教団体といったアソシエーションへの参加を通じて、自分とは違う他者の考え方を尊重し、合意形成していくパブリック・マインド(公について考える気持ち)が醸成されていくのだと。
 そして、トクヴィルアメリカ社会において注目したのが、教会という組織でした。ベラーはそれに注目して、アメリカの近代が、行き過ぎた個人主義に呑み込まれる中で失ったタウンシップ、そして中間共同体に参加する意思を「ハビッツ・オブ・ザ・ハート」と称して、それを取り戻そうという議論を展開しました。
 何を申し上げたいかというと、教会に通うという行為と近代デモクラシーは対立する概念ではなく、彼らの世界像の中では両者は補完し合う形で結びついているということですね。
 おそらく日本は、行き過ぎた世俗化論の中でこういう議論をし忘れてきたのではないでしょうか。むしろ、宗教的な中間共同体をデモクラシーの的と見なしてきた。ここに理論的な面でも大きな問題があったのではないかと考えています。
島薗 ヨーロッパでもフランス以外は、何らかの形で宗教と公共空間は結びついています。たとえばノルウェイは二〇一二年まで「国教」制を取っていましたし、イギリスや北欧は旧国教会の社会的役割が今でも大きいです。ドイツは教会税が続いているし、ドイツやイタリアの学校での宗教の授業はキリスト教が主体です。ドイツの首相メルケルが率いるのもキリスト教民主同盟です。
 また、ドイツと言えば、脱原発の決定を倫理委員会が行いましたが、一五人の委員の中にカトリックプロテスタント両方の教会関係者が三人入っていました。そして、その倫理委員会の決定の中身を見ると、キリスト教の伝統を考慮する文言が含まれています。
 民主主義が適切に機能するためには、人々が共感や連帯感を持って、また、共有する倫理的な前提にそって政治的な課題や問題に向き合うことが必要になってくる。では、そういった共感や連帯感の根は何かと言えば、やはり宗教的な基盤ということになるわけです。
 中島さんの指摘を逆から言えば、社会が宗教から抜け出ていくと、民主主義を支える基盤も損ねてしまうことが起こり得るのだと思います。
    ‐‐中島岳志島薗進『愛国と信仰の構造 全体主義はよみがえるのか』集英社新書、2016年、180‐182頁。

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