覚え書:「文庫この新刊! 福永信が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2017年07月30日(日)付。
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文庫この新刊! 福永信が薦める文庫この新刊!
文庫この新刊!
福永信が薦める文庫この新刊!
2017年07月30日
(1)『馬賊の「満洲」 張作霖と近代中国』 澁谷由里著 講談社学術文庫 1015円
(2)『帝都復興の時代 関東大震災以後』 筒井清忠著 中公文庫 929円
(3)『カニバリズム論』 中野美代子著 ちくま学芸文庫 1296円
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(1)これが歴史だと唸(うな)らせる文章だ。歴史小説とは違う。用心棒的存在の「馬賊」出身である張作霖が、トップ政治家へと至る濃密な人間関係を描く。人間ではなく不可視の「関係」を描くのが本書のキモである。力と力のぶつかり合いとして歴史が描かれる。日本で定番の「傀儡(かいらい)」なる通念を覆す画期的な歴史書でもある。名の残らぬ多くの馬賊の蹄(ひづめ)の音が、エコーのように響く。
(2)とにかく怒っている。関東大震災の復興の采配を巡って、今なお後藤新平が持ち上げられることに苛立(いらだ)っているのだ。彼の政治的敗北の産物である「復興局」での疑獄事件を丹念に追う。なぜこの事実が忘れられるのかと怒りは爆発する。歴史は後世に残ることでしか声をあげられぬ、儚(はかな)い生き物なのだ。
(3)「人肉嗜食(ししょく)」という強烈なテーマの中に宿る、人間らしさ。中国を中心に各国の文学を渉猟し「良識」以外の世界の豊かさを探索する。どこか茶目(ちゃめ)っ気のある、それでいてクールで洒落(しゃれ)た文章も魅力。三十年ぶりの文庫化。歴史的な名著である証拠だ。
−−「文庫この新刊! 福永信が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2017年07月30日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2017073000003.html