覚え書:「インタビュー [著]木村俊介 [評者]野矢茂樹(東大教授)」、『朝日新聞』2017年07月23日(日)付。

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インタビュー [著]木村俊介
[評者]野矢茂樹(東大教授)
[掲載]2017年07月23日
[ジャンル]人文 社会
 
■はりぼて化を拒否するために

 著者はそれを「はりぼて」と言う。外見だけをとりつくろった情報が、短い言葉で言い切られ、コピーされ、増殖していく。いまに始まったことではない。私たちはそういう言葉が好きだ。そしてそんな「はりぼて」はいまやネット上に蔓延(まんえん)している。私自身、ものごとや他人に向かうとき、こんなもんだろうと自分のあらかじめの思惑で切り取ろうとする。いわば、世界と他者を「はりぼて化」してしまう。著者、木村さんは、そんなはりぼてを食い破りはみ出ていくものへと、耳を澄ます。
 木村さんは19歳からインタビューを始め、それを20年以上仕事にしている。その経験から、「インタビューとは何か」「インタビューには何ができるのか」を語り出す。実際に為(な)されるインタビューの多くは、取材する側のあらかじめの思惑にそって分かりやすくまとめられたものだろう。しかし、そこから踏み出ていく可能性を、木村さんはインタビューに見出(みいだ)している。はりぼてではない、生身の他者に出会うこと。
 あらかじめ何度も資料を読み直し、違和感も抵抗感もある相手の声に身をゆだね、侵蝕(しんしょく)されていく。そうして、生身の他者の心の中に、人生の中に、まだ外へと開かれていない孤独の中に、潜り込んでいく。この姿勢は、はりぼて化した世界にぬくぬくとしがちな私を揺さぶった。世界と他者のリアリティを、手放してはいけないんだ。そうしないと自分自身がはりぼてになってしまう。
 正直に言えば、私は最初文章が妙にもたついていると感じた。しかし、それがわざとだと気づいたとき、読み方が変わった。彼はここで肉声を発している。私たちは、木村さんがインタビューでそうするように、彼の声の中に潜り込んでいかねばならない。ついこちらの思惑にかなった分かりやすい言葉を拾おうとしてしまう私たちに、この本自身が、全身ではりぼて化を拒否しているのだ。
    ◇
 きむら・しゅんすけ 77年生まれ。インタビュアー。『善き書店員』『料理狂』『仕事の話』など。
    −−「インタビュー [著]木村俊介 [評者]野矢茂樹(東大教授)」、『朝日新聞』2017年07月23日(日)付。

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